イクボスが、家族を、企業を変える

「もっと女性活躍を」「男性の家事育児参加を」と声高に叫ばれる今、子育て社員を守り、優遇する制度や環境が広がるほど、あちこちの企業、そして家庭で問題が勃発している。理想と現実がかみ合わないのは、なぜなのか。働く人たちのホンネをもとに、仕事と子育てに本当に必要なことは何かを探る。
※イクボスとは…男性を含め、部下の育児参加に理解のある経営者や上司。部下の育児休業取得推進など、仕事と育児を両立しやすい環境整備に努めるリーダーのことをさす。

妻(女性社員)

育休復帰後、子どもの病気で有休を使い果たすほど頻繁に休み、早退もざら。周囲に「すみません」と言い回る毎日で、肩身が狭い…。特に何か言われた訳ではないのだけれど、みんな快く思っていないのではという罪悪感があります。【30代前半・さっちさん】

夕方以降の会社の行事にまったく参加できない。そもそも誘ってもらえないので、少し寂しいです。【30代前半・さやさん】

仕事・家事・育児で24時間あっても足りないくらいで、夫にまで気を回せない。正直、「自分のことくらい自分でやって」と思う。【30代前半・ぱりこさん】

夫の帰宅は23時過ぎなので、平日は保育園のお迎えからごはん、風呂、寝かしつけまで全部私1人でやっている。私も仕事しているし、ずっと時短勤務というわけにもいかず、ずっとこれが続くと思うと理不尽な気がします。【30代前半・ぴろこさん】

資料整理、印鑑押し、掃除、電話番…と、キャリア15年目にして新人の頃の仕事が回ってきた。残業できないので責任のある仕事を遂行できる自信がないが、みんなと仕事している、会社の一員であると実感が持てないのも辛い。【30代後半・れんこさん】

夫(男性社員)

子どもが病気になったとき、夫婦でどちらが休むか押しつけ合いになる【30代後半・とげまるさん】

自分がお迎えに行く日の就業間近に、顧客から「今から話したいんだけど、来れる?」という電話。女性上司に、横から「私だったら、お客様のところに行くけどね」と言われた。【30代後半・もっこすさん】

育休を取得したいと申し出たとき、「男は仕事だろう? 何を考えているんだ、お前は」と言われた。【『ファザーリング・ジャパン』アンケートより】

自分の仕事が片づいても、帰りづらい雰囲気がある。【30代後半・cafemoriyaさん】

上司、経営層

シフト制のため、突然の休みは正直困る。実際にお子さんの看護による休みも多発しているし、なかには、子育て中で忙しいからと、シフト以外の日は連絡が取れなくなる人も。状況次第では、あまり責任ある仕事を任せきれないこともあります。【30代後半・moco**さん】

「今話をしたい」と思ったときに、時短や休みで不在…。しかしそれは、「誰にでもあることだ」と思い直すようにしている。【50歳以上・???さん】

同僚

私の仕事は、子育てしながら出産以前と同じような働き方ができる職種ではない。かと言って別の部署もないから、みんな子どもを産まない。産みたい人は辞めていきます。【30代後半・ゆかさん】

仕事と育児の両立を見据え、地元の今の職場を選んだ。時短勤務で職場・夫の理解もあるので働きやすい。【30代前半・もくちゃんさん】

「子育て中だから仕方ないでしょ」と、みんなでやっている掃除当番を引き受けない人も。それは何か違うよな…と感じます。【30代後半・ポルコさん】

「職場のホンネを聞かせてください! 9月号特集記事アンケート」より(avanti働く女性研究所調べ 調査期間:2014年7月10日~31日)

「え! 妊娠したの? 参ったなあ…」「育休を取りたい? 男は仕事だろう? 何を言っているんだ」。これは、本当にあった「上司が部下に発した言葉」です。そんな言葉をかけられて、「よし、がんばって働こう!」なんて思えますか? 男女ともに取得できる育休や時短勤務など、子育てしながら働く制度ばかりが整っても、現場で働く人たちの「お互い様」の気持ちが生まれなければ機能しません。社員間のそうした気持ちを育み、子育て社員のみならずみんながHAPPYになれる働き方を実現するキーマン、それが「イクボス」なのです。

あなたの職場のボスは、どんなボス?

「男が育休取るなんて、ウチでは無理!」「時短勤務で早く帰るママ社員はいいよね…」。もし一緒に働く人たちの間にそうした雰囲気があるのなら、残念ながらあなたのボスはイクボスではありません。子が親を見て育つのと同じで、部下も上司の背中を見て育ちます。ボスの考え方や仕事のやり方は一緒に働く人に影響するので、「子育てしながら働くことへの理解や協力」はそのままその部署の風土になるのです。

理解や協力を得られていることを実感した社員は、「みんなに支えてもらっている分、仕事で恩返ししよう」と、他の社員や会社へ貢献したい気持ちが強くなります。そして、子育てしながら働くロールモデルが身近にできると、結婚・出産を理由にした退職は自然と減っていくはずです。また子育て社員に限らずとも、リフレッシュしたり、職場以外でのインプットやコミュニケーションの機会は、仕事によいアイデアや刺激を生みます。社員のモチベーションアップや会社へ貢献する気持ちを育むイクボスの存在は、会社の成長に一役も二役も買うというわけです。

仕事と生活の満足度は両輪。両方が上手くいくことが大切

リーマンショックで、企業がコスト削減のために残業の廃止や勤務時間の縮小を行った際、早く帰宅できるようにはなったものの、家族と何をしていいのか分からない男性が多くいました。そして、改めて家族の絆に気づかされた東日本大震災。この2つの出来事は、働く人たちに「仕事と育児を両立しながら楽しく生きていきたい」という価値観の変化をもたらしました。ですが、いまだ男性の育児休業取得率は伸び悩み、女性の出産後の再就職も難しい現実です。

高齢化社会がさらに進むこれからは、育児だけでなく、親の介護を担う人たちもどんどん増えます。そんな中で企業が生き残る鍵は、長時間労働が社員の疲弊を招いても業績アップには繋がらないことに気づき、ライフステージに合わせた多様な働き方や雇用のあり方を考えること。さらには、子育て・介護社員に限らず、誰がいつ休んでも仕事が滞らない体制を整えることです。それを実現するうえで、一人ひとりの仕事と生活の調和に心を配れるイクボスの存在は欠かせないでしょう。

すべての企業で、仕事と生活両方を楽しむことがトレンドになり、夕方4、5時には帰宅できる社会へと変わったら、みなさんの生活はどう変わるのでしょう。楽しみですね。

安藤哲也さん
NPO法人 ファザーリング・ジャパン代表、
厚生労働省「イクメンプロジェクト推進チーム」、
内閣府「男女共同参画推進連携会議」委員など

二男一女の父。「仕事も子育ても人生も、笑って楽しめる父親を増やしたい」と2006年、『ファザーリング・ジャパン』を設立。年間200回の講演や企業セミナーで全国を飛び回る。また、以前は自身も深夜まで働くことがあったが、2人目を出産した妻の家出を機にワークライフスタイルを変革。多忙ながら、朝1時間は家事をこなし、16時には帰る生活を心がける。
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written by 編集部