どうやったら「残業なし」が可能なの?

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 先々月号の「子育てと仕事の両立」の回で、「アメリカ人男性と結婚した日本人女性がまず驚くのは夫がまっすぐ帰ってくること」と書いた。そして「残業なし社会」が子育てを大いに支えている、と。すると、編集部のTさんから「どうやったら „残業なし〝 が可能になるのでしょう」という質問が来た。

 確かに。やってもやっても終わらない仕事の山、残業しても足りない時間。そんな仕事現場で、皆が毎日定時に涼しげに帰れるというのは、どんなからくりがあるのか。
 その答えは簡単。有無を言わせぬ最大の強制力―そう、法律だ。アメリカでは「サービス残業」は1時間でも違法である (※1)。2015年度には1万496件 (※2)が摘発され、78%が適正な支払いを課されている。しかしまともな会社は摘発と訴訟による損失を恐れ、残業をさせないマネージメントに力を注いでいる。
 ちなみに、残業させる場合には「残業時間に対して通常賃金の1・5倍」を支払わなければならないという法律もある。アメリカ政府は意図的に企業に金銭的負荷をかけ、残業を減らす働きかけをしているのだ―もしかしたらこれは、日本の未来図かもしれない。

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 法律が厳しくなったとき、人の意識は変わる。無料で残業させることができないどころか、1・5倍の残業代を支払わないといけないとなると、企業は「時間内に終わらせられる人」を評価するようになる。日本では残業はガッツの証になりがちだが、アメリカでは仕事が遅い証。下手したら残業したことが原因で次の解雇リストにも載りかねない。

 サービス残業のない社会は、人材リサイクル社会へと変化する。あなたが社長なら、何もできない新卒と、雇ったその日から即戦力となる経験者のどちらを選ぶだろうか。ゼロから教えなければならない初心者でも、定時の後は1・5倍の残業代を払わなければならない。資金的に余裕のある会社以外は、経験者を選ぶ可能性が増えてくるだろう。実際、アメリカには日本のような新卒至上主義はなく、30代、40代でも実力と経験があれば転職への壁はない。あなたが懸命に努力して得た実力と経験は、勲章となり、どこへでも付いてくる。一方で、それらを持ち合わせていない人には厳しい環境(解雇など)になる。

 アメリカが「人材リサイクル社会」としてうまく進化を遂げたのは、日本と違って年齢にこだわらない社会というのもある。人に年齢を聞くのはご法度、さらには履歴書に年齢を書くことも禁止、面接時に年齢を聞くことも禁止というアメリカ。「残業なし」という実力主義社会が訪れたとき、日本にも年齢や入社年度にこだわらない職場感覚が浸透、もしくは意識的にそう変える必要が出て来るかもしれない。


※1 報酬なしで残業をさせても良い場合もある(役職付きなど)。
※2 アメリカ労働省 https://www.dol.gov/whd/data/datatables.htm#panel1

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猪股るー

元アヴァンティ副編集長。2016年1月にロサンゼルスにて広告代理店「Ru-Communications LLC」を起業し、日本企業の全米進出をサポートしている。著書に『愛する日本の孫たちへ』(桜の花出版)、韓国で出版された語学テキスト『チョルムン イルボノロ マルハジャ(今どきの日本語で話そう)』(サラミン出版)などがある。
WEB www.RuCommunications.com

written by 編集部