
細川佳代子さん
認定NPO法人スペシャルオリンピックス日本名誉会長
満州・新京(現在の長春生まれ)。上智大学英文科卒業。他にも、NPO法人勇気の翼インクルージョン2015理事長、知的発達障がいのある青年たちを主人公にした映画を製作する「ableの会」代表、日本フロアホッケー連盟会長、世界の子どもにワクチンを日本委員会(JCV)理事長を務めている。夫は細川護熙元首相。近著に「花も花なれ、人も人なれーボランティアの私」(角川書店)がある。
例えば、車で移動中にバス停で大荷物を持ったお年寄りを見つけたら、停車して「お乗りになりませんか」と声をかけていた。もちろん、見ず知らずの相手である。細川佳代子さんにはこんな振る舞いが身の内にしみ込んでいて、あっけらかんと行動になってしまうところがある。「昔は誰でも声をかけて助け合ったでしょ。私自身、そういう時代に生まれ育ちましたから」。
名家、細川家に嫁ぎ、細川護熙元首相夫人という特別な背景も持ちながら、気さくで、包み込むようなお人柄。情熱的で真実の人。そんな彼女が一瞬、眉を曇らせて、世界的にも高水準にある日本の自殺率の高さに触れた。
みんなそれぞれ違うが、誰も一人では生きていけない。
「苦しんでいても周りは無関心。一声掛けてくれる人が皆無に近い世の中になっているでしょう。これは日本が敗戦後に立ち直る過程で経済、利益、効率を第一義に置いたからだと思うんです」
深刻で複雑極まりないこの問題は、人知で解決できるのだろうか。
「最終的に行き着いたのがあたたかみのある地域社会を取り戻すこと。そのためにスペシャルオリンピックス(SO)の価値観を当たり前にしたいと考えているのです」
SOとは知的発達障がいのある人たちがスポーツを通し自立と社会参加をめざす国際組織。細川さんは91年にSOと出合い、熊本から全国に広げ、05年には長野でのSO冬季世界大会を実現した。細川さんを駆り立てた価値観とは―。
「SOでは選手全員が性別・年齢・能力別にクラス分けされて決勝に出られ、すべての選手に最後までベストを尽くすチャンスが与えられます。競争主義で、負けたら落伍者になる現代社会とは対極にあるでしょう。ましてや障がいのある人たちは利益や効率につながらないものとして真っ先に社会から排除されてきた存在。でも、彼らを手助けすることで、私たちの生き辛さも解決されるという奇跡のようなことも起こっているんですよ」
ある中学校では、障がいのある人たちと生徒がともにスポーツをする交流プログラムを通して、荒れやいじめが雲散霧消した。
「人を助けて、喜ばれ、心が充足する。これは幸せということじゃないでしょうか」
恋愛結婚で護熙氏と結婚する前も身を投げ打つような仕事の仕方をしてきた。会社初の駐在員としてヨーロッパに一人で派遣されたり、27歳の時は映画の買付関係の仕事に携わっていた。思いついたら即行動。どれも前例なき挑戦だが、彼女にとって難問はスリルでもある。度胸は波乗りで身についたらしい。中学、高校時代は手製の板で高波に挑んでいた。
「今も大波に乗る夢を見るんですよ」
05年のSOの閉会式で10年後の目標を決めた。障がいのある人が普通に暮らせる社会にする。そのための教育と雇用の促進をバックアップする「勇気の翼 インクルージョン2015」も動き始めている。
「インクルージョンとは包み込むという意味。一人ひとりの違いを受容し、障がいのある人たちも活躍できる社会をめざしたい」
そう話す細川さんの人生には、まだまだ豪快な大波が勝負を挑んできそうだ。彼女はそのたびに、「えいっ」と痛快な波乗りを披露してくれるのだろう。
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