矢永 博子さん
医師
やなが ひろこ / 1983年聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、同大学形成外科に入局。ヒト表皮細胞培養に関する研究で医学博士号取得。米国ハーバード大学留学、聖マリアンナ医科大学形成外科講師、久留米大学形成外科講師を経て2001年7月『矢永クリニック』を開業。専門は乳房再建、乳房、乳頭乳輪に関する手術、培養表皮を用いたやけどや傷あとの治療、培養軟骨を用いた隆鼻、形成外科、美容外科の各種手術。
取材をお願いしようと、いつクリニックに電話をかけても「先生は今手術に入っております…」との返事。時間の許す限り、自分の人生をかけて「乳房再建」治療に取り組んでいる女性医師が北九州にいる。
西日本一の手術数
現在、女性がかかるがんとしては罹患率がもっとも高いと言われている乳がん。場合によっては、乳房を切除しなければならないことも多い。もちろん、乳がんの手術そのもの、自分の生命についての不安も大きいが、乳房を失うことを恐れてなかなか手術を決心できない場合もあるほど、女性にとっては大きな問題だ。
そんな女性たちにきれいな形の乳房を再現し、勇気を与えているのが、矢永博子さん。日本でも数少ない乳房再建のスペシャリストとして、年間120~150の手術をこなす医師だ。
矢永さんが乳房再建の道に進む決意をしたのは27歳の時。女子大の英文科から医学部に入学し直した彼女が、研修医生活を終えようとしていた頃のことだった。何科に進むか迷っていた矢永さんにある教授がこう言った。『女医さんなんて、医学書の翻訳でもしてればいいんだよ』「あの言葉は、ものすごくショックでしたね。冗談じゃない、と思った。そんな時、乳房再建の手術をした患者さんに出会ったんです」と矢永さん。入院時にはものすごく暗い顔をしていた患者が、乳房再建手術を受けて退院するときには、別人のように輝いた顔をしていたという。「『命さえ助かれば乳房がなくても仕方ない』という先生も少なからずいらっしゃいます。でも、乳房を再建することで女性としての自信、生きる喜び、望みを持つことができる。女性である私だからこそ、少しでもその手助けができるんじゃないか、というのが再建治療に取り組んだ大きな理由です」。
多くの女性に勇気を
北九州にクリニックを開院したのは5年前のこと。それまで大学病院では週に1日しか手術の時間が取れなかったが、開業してからは毎日手術を行い、患者の要望にもより応えられるようになった。取材したこの日も、2例の手術を終えた後だった。多くの手術を経験するほど、スピードはどんどん速くなり、患者の体の負担や合併症の危険も減ったという。
やはり医者である矢永さんの夫は、麻酔医として手術を管理している。彼女の手術をより安全なものにするためだ。医院のホームページには、夫の言葉として「私は矢永クリニック代表として、また矢永博子の夫として彼女の医療を支持します」と書かれている。
また、つい先日テレビで取り上げられた際には、多くの患者が快く取材に協力してくれた。なかには、実名で治療内容を取材させてくれた人までもいた。「みなさん、『自分も悩んだから、一人でも多くの人にこの治療のことを知ってほしいんです』と言ってくださったんです」。彼女の医療への取り組みは、周囲の人を巻き込み、サポートを得て、さらに多くの人へ勇気を与えようとしている。
「これが私の仕事だから」
矢永さんは言う。「人生はそんなに長くないので、人がやれることって限られているんですよね。だから何かひとつ世の中に貢献できるライフワークがあるんだったら、それをじっくりやっていこうと思うんです。何をやるにしても継続は力なり、ですよね。何かひとつのことをずーっと続けていると、評価は必ずついてくるから」。
運命論を振りかざすわけでもなく、大げさでもなく、「これが私の仕事だから」と治療に取り組む。明日もたくさんの患者が矢永さんを待っている。


















コメント