会議が緊迫している。今引き下がれば数ヵ月もかけて準備してきたことが台無しになる。勝つか負けるか、私の貧弱な前頭葉はフル回転している。その時、「コーヒーでございまーす。どうぞ」と明るい声。「お熱うございますからお気をつけになってください」とさらに親切。私たちも「ありがとう」「ありがとうございます」と笑顔をつくる。思いっきり話の腰を折られた私たちは「え、ところで、どこまで話が進んでいたんだっけ」と書類に目を落とす。
会議中の飲み物はありがたい。でも、もう少しタイミングを見て、あるいはじゃまにならないところにそっと置いてくれれば言葉にしなくても「どうぞ」という気持ちは伝わるもの。こちらも軽い会釈で済み、仕事が中断される事もない。言葉使いやハキハキした口調からきっと優秀な女性だと思うけれど、その場の空気を読むのは苦手のよう。
上司がせかせかとデスクにやってきて「すまないが手が空いたらコピーやっておいて」と書類を置いていく。夕方になり「やっておいてくれた?」と聞く。「いえ、すぐにとはおっしゃらなかったので」と急ぐ様子もない。上司は心の中で思う―この時期急がない仕事なんてないはず。どれだけ事務所中がバタバタしているか解りそうなことを。さっき給湯室でおしゃべりしてたのは誰だ!―って。
私だってスタッフに本当は「すぐに、急いで」と仕事を頼みたいのだが、つい「後でとか、手が空いたらお願い」というふうに良い人ぶってしまう。頼む人の口ぶりや、書類の内容で対応の仕方は想像できると思うけれど…。その場の空気とか気配、言葉にならない部分を感じ取れないで生活するって恐い事だと思う。
電話しても「忙しい」の一点張りの彼氏、会うと「疲れた」の連発。決定的な心変わりを知るまで「忙しい彼氏」と思い込んでいて愕然とするのは優柔不断な彼の責任ばかりではないと思う。夫の数十年間の浮気に気づかなかった妻なんて、上には上がいるが「鈍感は幸せよ」なんて言わないで。子供が非行化して行くのに気づかない親。殴られている子供がいるのに気づかない隣人なんて、鈍感の極み。
空気や気配を察するのは、幸せに生きるために大切な感覚だと思わない?
![]() |
| ●やまぎわちづえ/料理研究家として広く活躍すると同時に、仕事は食品関連会社顧問、メニュー開発、執筆、講演、公的機関の委員、テレビ番組、ラジオのコメンテーターとして多方面にわたる。著書「おなかすいてない?」海鳥社より好評発売中。 http://www.qbiz.ne.jp/yamagiwa |
| →最新記事に戻る |
| →バックナンバー一覧 |
鈍感は不幸の始まり
2004-02-28 17:23. [ いろいろ ] 編集部








コメント