インタビュー

葉室 麟さん/人の生き方にこそドラマが。 日々の営みに尊さを、挫折の中にも希望を見出す。

葉室 麟(はむろ りん)さん
小説家
福岡県北九州市出身の時代小説家。西南学院大学卒業後、地方紙記者等を経て2005年「乾山晩愁」で歴史文学賞、2007年「銀漢の賦」で松本清張賞を受賞。2012年には「蜩ノ記」で直木賞を受賞し、この作品は2014年に映画化された。現在は久留米で執筆活動を行い、休日には史料を読んだり音楽鑑賞を楽しむ。

葉室さんへ3つの質問

Q. この仕事に向いている人は?
A. どんなに苦しくても自らを失わず、あきらめない人。

Q. あなたのバイブルは?
A. 山本周五郎の『ながい坂』『樅ノ木は残った』。新作を立ち上げる時に読んで、自分を鼓舞しています。

Q. あなたのメンターは?
A. 読者のみなさんです。

人の生き方にこそドラマが。
日々の営みに尊さを、挫折の中にも希望を見出す。

「負けてからが人生だと、私は思っています。挫折を経験することで、自分が何者か、自分に何があるかを突き詰めて考え、本当の自分になるために努力して生きていく。たとえ思い描いた通りにはならなくとも、振り返って『がんばった、できる努力はやりきった』と思える生き方をしたい。作品も、そうした自分の感情から書き始めることが多いんです」。そう語るのは、生まれ育った福岡で執筆を行う直木賞作家、葉室麟さんだ。

新聞記者から小説家へ

いつのころからか、「物書きになりたい」という想いを持ち始め、小学生の文集には「新聞記者になりたい」と記した。その想いは変わらず、大学卒業後は「読者の生活に寄り添って、地方の文化を発信できる」新聞記者の道へ。「記者の仕事を通して、何でもない日々の営みを怠らずにやっている。そんな人たちの生き方を尊く感じるようになりました」。

記者という仕事にやりがいと誇りを持ちながら、一方で、大きな事件などを追いかける競争社会でもある業界に、どこか違和感が。そんな葉室さんの心に変化を投じたのは、街にいるごく普通の男女に話を聞く企画の取材だった。

妻と離婚した男性が「家族を捨てた」罪悪感を背負い苦しみながらも、好きになってしまった女性と生きることを決意する。その姿に「生きていくことは不条理なことだらけ。それでも自分を受け入れながら生きていく。私は、そんな人の生き方にこそ関心があると気づいたんです」。小説家を志す転機になった。

創作意欲を掻き立てるもの

50歳を過ぎて小説を書き始めた葉室さん。「その年齢になると、自分の人生が思っていたものと違うことが分かる。その愁いともいえる感情を、同じ年代で悩みくすんでいる印象をもつ歴史上の人物に重ね、自分なりの答えを見出そうと書いたのが『乾山晩愁』」。デビュー作となった作品は、歴史文学賞を受賞。2012年には「蜩ノ記」で直木賞を受賞する。

時代小説を主軸にするのは「昔から日本人には、自分にとって損でも、他の人の暮らしがよりよくなるように『献身する』という美意識がある。そんな人たちが現実にいたことを知ると、心に響くものがあるからです。そして、この人のように美しく、清々しい生き方をしたいと思うからこそ人は感動するのではないでしょうか」。

史料を読むのは昔からの趣味のようなもので、緻密な時代考証も苦にならないという。むしろ、歌に込められた人の情や自然の営みにさえ哀れを感じている様子が、また心に沁みこんでくる。「日本人らしい、豊かな感性を自分自身も大事にしたい」と古の人に思いを馳せ、ペンを走らせる葉室麟さん。華やかさはなくとも実直に、ひたむきに生きる主人公に、読む人は希望を感じ、感動を覚えるのだろう。

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