博多帯の粋と博多人の意気を紡ぎ合わせて
博多織は、中世博多以降の„生きた歴史“
宮嶋美紀さんの工房『おりおり堂』に、織機が設置してある。それは8畳ほどの部屋をほぼ占拠し、高さはゆうに3m超え。頭部には紋紙(パンチカード)で糸の上げ下ろしを制御する「ジャガード機」というハイテク機器も頂いている。
「博多織は鎌倉時代から770年以上の歴史がありますが、明治時代にフランスから入ってきたジャガード機も博多織に取り入れられました。博多織は博多人が好奇心や自由な発想で産業を興し、街を興してきたことを伝える生き証人。博多だからこそ残ってきた織物だということを味わいつつ作品を創っています」。
見た目をキレイに、心を強くするサプリメントのような博多帯
織る時は立位。体の前後の梁にお腹とお尻を当てる。腰が決まったら力はあまりいらない。反対に未熟だと姿勢がぶれて力が必要になる。今は呼吸を意識して体を整えるようにしている。「帯は一本5m。一週間くらいで織ります。でも、色や柄を考える準備期間を入れると1本の作品が完成するのにやはり3カ月はかかりますね」。
宮嶋さんはもともと織物や着物関連の世界にいた人ではない。銀行員を経て結婚。一人息子が小学校に上がるタイミングで2年制の博多織デベロップメントカレッジに入学。同時に結婚生活に区切りをつけた。入学は覚悟の一歩。33歳のときだった。
「私の27歳はもうみっともないほどのへっぴり腰。感情や情熱を伝えることができず、精神的に参っていた。学校はそんな私の希望の灯だったんです。難しくて向いていないと思うことはありましたが、続けることしか頭になかった。息子には負担をかけたと思いますが」。
『布』が好きで、当初はどんな布でも良いと思っていたが、博多織を学んでからはすっかり惚れ込んでしまった。特に、締めたら緩まない博多織の帯は、帯になるために生まれた生地だと強く感じている。
「糸と糸の間に塩梅よく空気を含ませられ、遊びがあることで激しく動いても緩まない帯になると思う。帯は、ずらして幅を出せ、どんな体型にも合わせられる。女性は着物を着て帯を締めるとキレイになるだけではなく、体の芯を感じることができる。心が強くなると思う。私も少しは強くなれたかな。いつも周りの方々に助けてもらっているから、博多織の素材である絹糸が好きだから、生きている限り博多織を織り続け、伝え続けるつもりです」。
『博多織手織技能修士』
宮嶋 美紀さん
2010年博多織デベロップメントカレッジに5期生として入学。2013年に卒業し、福岡市博多区の『おりおり堂』で創作活動に入る。2014年、「第112回博多織求評会」で経済産業大臣賞を受賞。帯の創作に留まらず、ロサンゼルス生まれのバッグブランド『kao pao shu』とコラボしてバッグを制作するなど活動の幅を広げている。