著書『ほどよく距離を置きなさい』(サンマーク出版)が、発売3カ月で10万部を超えるベストセラーに。
90歳の現役弁護士の湯川久子さんに、悩みから抜け出して幸せに生きる秘訣を伺いました。
好奇心と情熱を失わず、相手とほどよい距離を保つ。それが、輝き続ける秘訣
「アヴァンティで取材していただいたの、何年前だったかしらね」。
白い歯を覗かせて笑顔で語る湯川久子さん。
御年90歳。
熊本生まれ、福岡在住の現役弁護士です。
以前本誌の連載『わたしが27歳の頃』の書籍化の際、「自分らしく生きていきたいなら、仕事を続け、趣味を持ちなさい」と働く女性たちにエールを送ったのは17年前のことでした。
女性の情熱が世界を動かす
27歳で司法試験に合格し、29歳でで九州第1号の女性弁護士となった湯川さん。
マスコミの取材は殺到したが「『女の子』に任せられる裁判などない、と、なかなか仕事はこなかった」と当時を振り返ります。
高度成長期の真っ只中、女性が社会に出るようになると、女性からの相談が一気に増えた。
福岡で行われた日本初セクハラ裁判にも名を連ね、常に女性の自立と幸せのために邁進してきた。
その湯川さんが、人生の集大成として出した本『ほどよく距離を置きなさい』は、日本中の女性の心に響きベストセラーになった。
この本が生まれるきっかけは、辿ればなんと本誌にたどり着くといいます。
「17年前に取材していただいたアヴァンティのライターさんがフリーになって上京されていて、昨年の春『湯川先生の本を作りたい。編集者と一緒に会いに行きます』って。編集の女性からも熱烈なラブレターをいただいて、こうなるともう、やらんわけにはいかんでしょう(笑) 。いつの時代もこうやってね、女性の思いが世界を動かしていくのよね」。
長年、女性を鼓舞し、その生き様を見守り続けたからこそ、情熱には答えずにはいられない。
年齢を重ねても枯渇することのない好奇心と情熱が湯川さんを輝かせ続けています。
人を裁かず、ほどよい距離を保つ
今年で62年目を迎える湯川さんの法曹人生の中で、離婚や相続など、人間関係のもつれに関する相談は実に1万件に達しています。
さぞ、多くの女性たちのために戦い抜いてきたのだろうと思いきや「私、嫌いなのよね、裁判」と意外な答えが返ってきました。
「だってね、裁判まで持ち込まずに絡まった人間関係の糸をほどくことができるなら、それが一番でしょう? 人の心は法律では裁けない。仕返しをすること、相手に勝つことが幸せへの近道ではないんです」。
1万件の相談や事件からたどり着いた幸せに生きる秘訣。
「恨み続ける未来か、手放して幸せに生きる未来か、それは自分で選べるのよ」。
もう一つ、人間関係の絡まりをほどく秘訣があるといいます。
それは、「相手の心の奥まで土足で入り込まないこと」だそうです。
「問題にぶつかってもがくとき、自分と相手の心の糸がもつれます。ここでなんとかしようとすると、その糸が、自分の糸なのか、相手の糸なのかわからなくなるんです。夫婦や親子など、近しい関係こそ、ほどよい距離を意識すること。そうすれば、自分の糸も相手の糸も絡まることなく、互いに寄り添って歩んでいけるから」。
Photo:日高康智 Text:MARU
弁護士 湯川久子さん
1927年、熊本県生まれ、福岡在住。中央大学法学部卒。1954年に司法試験合格、ほどなく結婚し、1957年“九州第1号の女性弁護士”として福岡市に開業。2人の子を育てながら、60年を超える弁護士人生の中で、1万件以上の離婚や相続などの人間関係の問題を扱い、女性の生き方と幸せの行く末を見守り続けてきた。