コラム

資産運用で重要な「為替」について

ふだん、為替レートなんて気にしたことがないという方でも、海外旅行に行くとなると、現地でのお金の価値がどうなるか、買い物で円なら幾らに相当するか気になりますよね。これまでは関心を持たなかった為替レートにも、注意を払ったりするようになることも、資産運用の第一歩を踏み出すチャンスです。

資産運用で重要なテーマとは?

資産運用で重要なテーマのひとつは、自分の資産をどの通貨で持つか、です。

高金利の通貨で資産運用すれば、その通貨での金額は大きくなりますが、運用して増えた分以上にその通貨の価値が下落してしまえば、結局目減りしたという結果になってしまいます。かつて日本でも高金利通貨が人気を博し、トルコリラや南アフリカランドでの外貨預金や外貨債券が売られていました。しかし、それらの通貨は、昨年40%近く下落することもありました。1年間で仮に10%で運用できたとしても、通貨の価値が40%も下落してしまえば、運用後の価値はマイナス30%ほどになってしまいます。これが外貨での運用のリスクです。

 

何故こんなことが起こるのでしょうか? 国ごとの収支を見るデータとして、経常収支があります。経常黒字とは、国全体としての収入が、支出を上回っている状態です。逆に経常赤字とは収入が支出を下回っている、つまりお金が足りない状態です。経常赤字の国は、足りないお金を借り入れたり、他から投資してもらったりして、埋め合わせなければなりません。そこで、その国の通貨を他よりも高い金利に維持する政策を採って、投資などによるお金の流入を促します。その国がしっかり経済運営していて、市場の投資家が落ち着いてリスクがとれる平常時には、お金は経常黒字を抱え余剰となっている国から経常赤字でお金を必要とする国へと流れます。そして、経常赤字の国の足りないお金がファイナンス(埋め合わせ)されるのです。ところが、経常赤字の国の政治や経済状況に異常な事態が起こると、市場の投資家はリスクに神経質になり、赤字の国への投資を止めたり、投資したお金を引き上げようとするようになります。すると、お金の流れは前述の動きとは逆転し、経常赤字の国から逃げ出し、経常黒字の国へと還流します。こうした流れが一気に進むと、今年のトルコリラ急落のような事態に陥るというわけです。

 

日本円と米ドルの関係どうでしょうか?

米ドル円の為替レートは、かつて1ドル=360円の固定相場制でしたが、変動相場制に移行してから、大幅に米ドル安・円高が進行しました。1ドル=80円を下回った時期もあったほどです。

為替レートが外貨安に動いてしまえば、外貨運用の結果は大きく違ってしまいます。しかし、金利を安定的に稼いでいくタイプの保険や債券投資であれば、運用する時間が長ければ長いほど、お元金には利子がついて着実に増えていくことも事実です。

 

では、ここで、330万円持っているAさんが、1ドル=110円の為替レートのときに米ドル運用を3万米ドルで始めるとしましょう。ちょうどお子さんが生まれて大学に入るときの入学金にしたいので18年間運用します。米ドルの金利は4%(複利)で、日本円の金利はゼロとします。

 

Aさん 330万円を運用

為替 1ドル=110円

米ドル3万米ドル(330万÷110円)

運用年数 18年(子供が0歳から18歳まで運用)

米ドル金利 4%(仮定)、日本円金利 0%(仮定)

 

以前「72の法則」で御紹介しましたが、4%で18年間複利運用すると、(4×18=72ですので)投資した3万米ドルは18年後6万米ドルになります。日本円のまま330万円を持っていても、銀行に預けても金利ゼロですから、18年後も増えることなく330万円のままです。

 

18年後、為替レートが1ドル=110円だったら、6万米ドルは660万円です。気になるのは極端に円高米ドル安になった場合です。もし1ドル=55円のときに6万米ドルを円に戻すと330万円になり、この場合はわざわざ米ドルで運用しなくてもよかったな、という結果になります。そこまで、円高にならなければ、円換算でも元本割れの投資にはなりません。

 

世の中には何が起こるかわかりません。1ドル=55円も有り得ないという断言は出来ませんが、それをどう考えるかは皆さんの判断です。米ドル運用では、3万ドルを18年間4.0%複利で運用すれば18年後は6万ドルに成長します。また、円高米ドル安の可能性だけではなく、円安米ドル高になることもあります(ちなみに18年後1ドル=150円の場合は、6万米ドルは900万円になります)。

 

先ほどお話した、米ドル円の為替レートは、円高のイメージが強いのですが、1990年以降の平均レートは、毎月末の平均値を取ると、110円60銭近辺です。現状とそう変わりません。かつて米国FRBトップだったグリーンスパン元議長も、「為替レートの予測は非常に難しく、明日のことも予測は出来ない」と言ったことがありました。為替レートは、短期間の変動で一喜一憂するのではなく、長期的な目線で見てください。一方、着実に運用できる機会は活かして、しっかり運用し元本を大きく成長させることが、将来への大きな備えを創っていくことに繋がります。着実な手段があるのに、運用をしないことが、一番良くないといえるでしょう。

ABOUT ME
長谷川建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス)CIO。 京都大学卒、MBA(神戸大学)。 シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。 2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。 >>長谷川建一氏登壇のセミナー:https://gentosha-go.com/articles/-/13973
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