家族ゆえの近さ、そして遠さ。『事業承継』と向き合うまでの道のり。
「事業承継を自分の中で本当に意識し始めたのは、実はここ最近のことです。」
そう語るのは、少し意外だった。諸藤槙希恵さんは、昭和42年創業・株式会社もろふじの事業承継を見据えている。現在は一社員としてグループ会社に勤務。明るい笑顔が印象的で、責任感の強い諸藤さん。しかし、『事業承継』という未来を自分の中に落とし込むまでには時間がかかったという。
「自宅と店舗が一緒になっていたので、お客様がいらっしゃいますと、『ただいま』の代わりに、私もお客様に『いらっしゃいませ』とお声がけしていました。でも、改めて家族と”事業承継”について真剣に話したタイミングは、3回だけでしたね。」
その3回というのは、大学受験の前、就職活動前、そして、家業ではない一般企業に就職してから3年目のタイミングだった。
大学受験の前は一度親元から離し、好きなことをさせるというご両親の方針のもと、諸藤さんは県外の大学を受験し、見事合格。大学では歴史や文学よりも、会社の成り立ちや経営に自然と興味が沸いたという。とはいえ、いざ就職活動を前にすると経営への興味と、家業に入り、経営に関わっていくことは一致しなかった。そして、娘を思ってかけられたはずの「好きなことをやれ」という父親の言葉は、急に突き放されてしまったような不安を湧き上がらせた。家業には入らないと決めた後は、0から就職活動をはじめ、会社の理念や社風に惹かれて大手化粧品/医薬品会社に就職。就職先では、現場での接客経験を積み重ねて、やりがいを感じていた。
社会人4年で家業へ入社。しかし、後悔の日々・・・
家業とは別の企業で働き、仕事にも慣れ、後輩社員を引っ張っていく存在となった社会人3年目。帰省中に、父親から「そろそろ帰ってこないか」と突然切り出された。諸藤さんは戸惑い、どうすればいいか分からず悩んだ。今さら戻って来いという父親に対して反発もしたという。しかし、家業に入ったとしても5年から10年は一社員としての修行期間が必要であることを考えると、今のタイミングが最適だと父親の背後にあった想いを母親から聞かされ、諸藤さんの気持ちが揺らいだ。更に、戻らないことを選択してしまえば、家族との距離も自然と遠くなってしまうのではないかと不安になり、その選択肢は自然となくなった。しかし一方で、当時働いていた企業にも強い思い入れを抱いていた。
「もともと働いていた会社はとても好きで、恩義を感じています。社会人として0から育てていただきました。お客様に満足していただくためにはどのような姿勢で向き合うべきかを学べたのは、特に大きかったです。だからこそ、なかなかふんぎりがつかずにおりました。」諸藤さんは笑いながら当時を振り返る。
しかし、前の会社でやりがいを感じていた分、いざ家業に入ってみると、気付くこと、感じることが多々あったという。また、改めて家業の魅力や家業で自分がしてみたいことについて考える機会を持てずにいた。更に、前職で共に働いていた同期が次々と管理職になり、キャリアを積み、いきいきと働く様子を見て、家業に戻るという決断が本当に正しかったのか、後悔することも次第に多くなった。そんな態度が仕事にも出ていたことが家族に見透かされ、衝突が度々起こった。家業に入って2~3年は本当に辛い日々だったと話す。
大学院入学と事業承継。覚悟を決め、経営の『真価』と『進化』を問う。

家業に入ってから後ろ向きの日々が続いていた中で、食事に行く車中でふと父親から視点を変えてみたらどうかとグロービス経営大学院を勧められた。半信半疑で体験クラスに参加してみると、様々な職種の人の多様な考え方に触れることができ、それが楽しいと感じた。
そして、単科生として1科目の受講を開始させた。最初に受講したのは、クリティカル・シンキング。ビジネスパーソンの基礎となるロジカルな思考法を訓練する。この授業を通じて、徐々に自身を客観的に見つめなおせるようになった。更に他の科目の受講を進めていく中で、「なぜやるのか?」という問いを自分の仕事や生き方にも向けることが多くなった。興味があることを深堀していく中で、大学院に入学しなければ受講できない『ファミリービジネス』という科目に興味を持った。その時、やはり自分の根本的な興味は事業承継にあるのだと確信できた。
経営を学ぶために大学院への受験を決意すると同時に、家業に対する思いが、「覚悟」へと変わった。出願に必要だった推薦状を父親に依頼したのも、覚悟の表れだった。しかし、内容はいまだに諸藤さんも全く知らないという。
(注意)2019年8月現在では、グロービス経営大学院の受験の際の推薦状は任意となっています。
「色々ありましたが、経営者として父親を尊敬しています。弊社には父の名前(株式会社もろふじ 代表取締役社長 諸藤三富)を文字って、三富(さんとみ)経営という方針があります。社員、お客様、そしてお取引様の三者がこれからも富めるようにしていくという考え方です。三者がこれからも富んでいけるように、呉服という伝統的な事業を基軸として、商材、商材の扱い方、会社の制度を進化させています。」
そして、諸藤さんから尊敬する経営者として、もう一人の名前が挙がった。
「88歳の今でも現役でバリバリ働く祖母を尊敬しています。祖母は創業期からずっと祖父を支えながら、お客様に誰よりも近い存在として、お客様から絶対的な信頼を得ています。お客様からの信頼こそが、会社の真の価値だといつも教えられます。」
父からの『進化』と祖母からの『真価』。
諸藤さんは今日も、経営について学んだことを実践しながら、自身に家業の”シンカ”を問い、新たな未来を描いている。
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