人生において、女性が一度は意識する「妊娠・出産」というテーマ。
晩婚化や月経異常でなかなか授からない、いつまでに産みたいと希望があるものの「結婚する予定がまだない」と、今の時代を生きる女性たちにとって、思うようにいかないのもまた、このテーマだ。
医療技術が進むにつれて多様化していく“産む”ことへの意識や、広がる選択肢、ゆえに生じる迷いや葛藤…。
今回は、そんな女性たちの「妊娠・出産」に対する現状やホンネを探る。
●第1子出産時の母親の年齢
1995年 27.5歳 → 2012年 30.1歳 (平成23年人口動態統計 厚生労働省)
厚生労働省は、不妊治療の公費助成の対象を42歳までとする年齢制限を2016年度から始める方針を決定。2015年度までは移行期間として、年齢制限は設けないが、助成の回数は現在の最大10回から6回に減らすことも決まった。
日本生殖医学会では2013年8月、これまでは不妊治療をする夫婦などに限るべきとされてきた卵子の凍結保存を、健康な独身女性にも認めると決定。ガイドラインでは、卵子凍結は40歳以上は推奨できない。凍結した卵子で不妊治療を行うのは45歳以上は推奨できない。保存や治療について女性に十分説明すること、などが示されている。
(2013年 日本生殖医学会「未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関するガイドライン」)
日本国内の不妊治療を行う病院・クリニックの数は約600件。一方、アメリカは500件弱、中国は約300件。主要諸国を上回る不妊クリニック数を誇っている。
(「Assisted reproductive technology in Europe 2007 MarketdataEnterprises)
2013年1月、国内で初めて「卵子を無償で提供してくれるボランティアを募集する」という発表が行われた。支援団体「卵子提供登録支援団体OD-NET」によるもので、卵巣機能に疾患がある女性が卵子提供によって体外受精ができるよう呼びかけている。
イギリスの研究グループが行った国際調査によると、日本は海外に比べて不妊に関する知識が極端に乏しいことがわかった。
●「36歳を境として、女性の妊娠力は低下するか」という質問に対する正解率
日本29.6% カナダ82.1% イギリス71.9%
(2010年 イギリスカーディフ大学国際意識調査「スターティング・ファミリーズ」)
自分の身体のことを知り、
人生計画を立てる大切さを痛感。
佐藤みかさん(仮名・32歳)
日田支局、長崎総局を経て現職。西日本新聞生活面、2013年の連載「こんにちは!あかちゃん 第3部 私は産めますか?」を担当。
「まさか自分が…。検査結果を聞いたとき、ショックで頭が一瞬真っ白になりました」
そう話すのは、新聞記者の佐藤さん。約1年前、卵巣年齢(卵巣予備能)をチェックするAMH検査を受け、その結果に愕然とした。
卵巣年齢には個人差が。まずは自分の状態を把握する。
少子化をテーマにした連載を担当することになり、検討材料の一つとして受けてみたAMH検査。「31歳という実年齢に対し、卵巣年齢は30代後半という結果でした。妊娠力に問題はないけれど、卵子の数が平均値に比べて少なめ。将来もし不妊治療を希望した場合、受精のために採卵が必要になりますが、そのときに卵子の数の少なさが影響するかもしれないということでした」。
他人事ではなかった。多忙な毎日が原因かとも思ったが、検査結果を説明してくれた医師曰く「生活習慣は関係ない」。20、30代の早いうちに卵子が激減する人もいるが、その原因は医学的にも解明されていないのだという。
定期的な婦人科検診で、身体の状態を整える。
「35歳を過ぎると妊娠しにくくなる」「自然妊娠できるのは45歳くらいまで」。それは知っていたが、卵巣年齢にも個人差があると知り、危機感が芽生えた。同時に、身近な人たちの顔が浮かんだ。「仲のよい同僚や友人たちは30代前後。責任ある仕事を任され、やりがいを感じている時期。“子どもはいずれほしい…”と思いつつも、結婚や妊娠、子育てなどのライフプランを具体的に描けない人も多いです。ただ、年齢によって変化する卵子・卵巣のことを、早く知っておくことで打てる手もあるはず。そう思いました」。連載記事では自身の体験をつづり、「自分の身体のことを知ってライフプランを立てることが、いかに大切か」を訴えた。
同時に検査後、彼女自身も将来のことを考え、行動を始めた。まず、ひどい生理痛を改善しようと婦人科を受診。ピルの服用でホルモンバランスを整えつつ、自分の身体を管理することに努めている。「女性の労働力を求める一方で、働きながら子どもを産み育てる環境が整っていないことが、不妊という問題を作りだしていると気づきました。女性の身体の仕組みや正しい妊娠の知識を知らなかったばっかりに、産みたいのに産めない。そんな後悔をしてほしくないから、みなさんにもぜひ、自分の身体のことを知ってほしいです」。
産むことを諦めたくない。不妊治療に想いを託す日々。
田中えりさん(仮名・41歳)
「いつまで産める? 産んだらどうなる? いつか産みたいあなたのために」と題したセミナーをアミカスで開催。定員の2倍以上の応募にニーズを実感。「私のように後悔する女性を一人でも減らしたい」と、2013年8月「HAPPY妊活ラボ」を始動。
「自分の努力でどうにもできないことってあるんですね。卵子が老化することをもっと早く知っていたら、違った今があったかもしれません」。昨年から、20年来のパートナーとともに不妊治療を始めた田中さん。仕事を調整しながら休みを工面し、1カ月半で通うこと6回。ホルモン測定やAMH検査、卵管造影検査など、ようやく不妊治療に入る前の身体のチェックが終わったところだ。年齢的にはもはや体外受精という選択肢しかなく、今後行っていく予定だという。
産みたいのに、産めない現実
仕事など、自分のやりたいことに夢中だった20代。30歳を過ぎ、「子どもがほしい」と思うこともあったが、非正規雇用のため「今妊娠すると仕事を失うかも」という経済的な不安や、育児にも自信が持てず妊活に踏み出せなかった。「それに、妊娠や排卵の仕組みや正しい知識を知らなかった。きちんと周期的に生理がある間は、いつでも妊娠できると思っていたんです」と、当時を振り返る。そんな彼女に変化が訪れたのは38歳のとき。親友が出産したのを機に自身も本格的に妊活をスタートし、ようやく1年半後に妊娠。だが、わずか2カ月で流産。その原因は分からず「妊娠は、望めばいつでもできるものではないんだ」と痛感した。
困難はあるけれど、それでも産みたい
思うようにいかない現実に、やるせなさと苛立ちが募る日々。彼女は、藁にもすがる思いで不妊治療することを決意したが、そこにも大きな壁が。人気のクリニックは連日予約でいっぱい。初診の予約を取るまでに半年もかかってしまった。「年齢や経済面を考えると、チャンスは体外受精1回と考えていますが、正直、何回受けるかは治療の様子次第ですね」。年齢的に焦りを覚えつつ病院へ通う田中さんだが、仕事を楽しむパートナーはなかなかその想いを共有してくれない。双方の温度差や、ほぼ全額自己負担のため重くのしかかる経済的な負担、自身の体調を考慮しつつ、仕事とクリニックとのスケジュール調整…と、困難がおおいかぶさる。「子どもを産むのか産まないのか、いつ産むのか、何人産みたいのか。多様な生き方ができる今だからこそ、若いときから妊娠・出産についての正しい知識を持ち、人生設計を練っておくことが大切。そうして一人でも多くの女性たちに後悔しない人生を送ってほしい、心から思います」。
年齢による女性の身体の変化に詳しく、不妊治療の現場で「産みたいのに産めない」と悩む女性たちに日々向き合う医師はどう思っているのか。
この分野で全国的に知られている2人の先生に話を聞いた。
健康な独身女性の卵子凍結容認について、どう思いますか?
日本生殖医学学会では容認していますが、日本産科婦人科学会では「これは医療とは言えない」という見解を出していて、議論の分かれるところです。私自身、婦人科の医師として微妙なところですが、選択肢としてあってもよいとは思います。かといって、「凍結したからいつでも妊娠できる」と誤解しないでほしいとは思います。
妊娠・出産を考える女性たちへのメッセージ
晩婚化や仕事の忙しさから、30代後半~40代で不妊治療に来られる方が増えています。ですが30歳から徐々に、35歳からはガクンと、卵子の数や卵子の質の低下により妊娠する確率が低下するのも事実。「生涯で子どもを産みたい」と思っているのであれば、35歳までに第1子を出産するのが理想的です。 すでに妊活を試みている方で、35歳未満であれば1年、35歳以上の方は半年経っても授からない場合は、早めに不妊治療を開始することをおすすめします。卵子・卵巣は年齢とともに変化していくことを意識し、パートナーともよく話し合って早めにライフプランを立てましょう。
取材協力/蔵本ウィメンズクリニック院長 蔵本 武志先生
1995年の『蔵本ウィメンズクリニック』開設以降、患者数34,000人以上(~2013年12月現在)の妊娠に成功。日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。
不妊治療費の助成に、42歳の年齢制限を設ける方針が決まりました。
これについてはどう思いますか?
実際に40歳すぎでは治療は非常に難しくなります。自覚しにくい「卵巣」や「卵子」の老化は誰にでも年とともに確実に訪れます。40歳をすぎての治療実績ももちろんありますが、AMHなどホルモン検査で分かる卵巣年齢の指標もありますので、まずは自分の体の中の老化をきちんと把握しておきましょう。
妊娠・出産を考える女性たちへのメッセージ
若い人に言いたいことは「基礎体温をつけてほしい」ということ。排卵日や卵巣の機能が分かれば、不妊にも避妊にも効果的です。不妊、高齢、生理不順などのほか、盲腸など開腹手術をした人も一度受診を。手術した器官や組織がくっついて「癒着」が起こり、卵管がふさがるなどして不妊の原因となることも。手術で治るのでチェックしておきましょう。また、凍結した未受精卵で子どもを授かるのは非常に難しいにも関わらず「凍結したから安心」と思い、ますます晩婚化が進んで出生率が下がるのではという懸念もあります。正しい知識を得る心がけが大切です。
取材協力/セントマザー産婦人科医院院長 田中 温先生
1976年順天堂大学医学部産婦人科入局。1990年『セントマザー産婦人科医院』院長に。累積患者数10万人以上。順天堂大学産婦人科客員准教授。日本受精着床学会副理事長。
卵子の鮮度・質維持のために摂りたい栄養素
卵子は、自身が胎児だった頃に作り貯めしていた卵母細胞を、卵巣で成熟させてでき上がります。ですから、卵母細胞の鮮度を保ち、卵母細胞をきちんと成熟させられるカラダ作りが大切です。そのための栄養素を心がけて摂りましょう。
卵子の老化防止
・抗酸化ビタミン・ミネラル (ビタミンC、E、亜鉛など)
・見た目にも色鮮やかな、旬の野菜や果物 (ポリフェノールなどのフィトケミカル)
卵母細胞の成熟をサポート
・コエンザイムQ10
体内への吸収が低いことで有名。サプリメントを利用する場合、コエンザイムQ10包接体や還元型コエンザイムQ10といった、吸収・利用効率に配慮されたものが◎。
日常生活で気をつけること
“冷え”が妊娠に影響するという、明確なデータはありませんが、身体の血の巡りが悪いと、卵巣にも栄養が届きにくくなります。卵巣は、女性ホルモンを出したり卵子を育てる大切な場所。血液の巡りを良くするためにも、温めたり適度に運動することが大切です。太り過ぎ痩せ過ぎも妊娠しづらくなる要因です。適正体重が理想ですが、太めの方は、今の体重の5~10%減らすだけでも妊娠しやすくなります。急激なダイエットは排卵を乱す場合があるので、1カ月2キロ以下のペースで。また疲労やストレスは、卵子が育ちにくくなったり、男性は精子の濃度が低くなることも。妊娠しやすい身体づくりのためには、何事も気楽に、ゆるく構えることが大切です。
小浦ゆきえさん/健康食品アナリストとして、生活総合情報サイト「All About」など各種ウェブサイトでの連載や、雑誌記事の執筆・監修などを行う。自身も30歳の時に33歳からの妊活計画を立て、九大大学院在学中に第1子を妊娠し、修了後34歳で出産。2013年に36歳で第2子を出産。
アヴァンティは「avanti働く女性研究所」という読者コミュニティを運営し、女性たちの声をキャッチしています!
>>『働く女性の「妊娠・出産」に対する実態調査』結果はこちらから!