仕事、恋愛、結婚、これからの暮らし。
シングル女子の前に現れる人生の曲がり角。
この角を曲がった先にはどんな未来が待っている？
episode 4
お金の「いま」と住まいの「未来」、見えますか？
フリーマガジンでマネーセミナーの記事を見つけた時は舞い上がったものの、申し込み締切の直前まで私は迷っていた。
お金の知識ゼロの私が参加しても大丈夫なのかな？
変な勧誘とかされたらどうしよう？
参加無料って書いてるけど個別相談は別料金とかじゃないの？
何しろマネーセミナーなんて初めてだから、あれこれ想像してみて不安になったり、自分で打ち消してみたりの繰り返し。さんざん悩んで優衣と沙織に相談したところ、
「そんなに心配なら一緒に行ってみようよ」
と背中を押されてようやく気持ちが固まった。
いよいよセミナー当日。会場のロビーで2人と待ち合わせて受付を済ませると、中ではすでに多くの参加者が席についていた。私たちみたいに友達同士で来ている人もいればおひとり様もいるようだけど、おそらく大半が30〜40代。期待と不安が入り混じった空気が会場全体に満ちていた。
ああ、自分の将来やお金のことで迷ったり悩んだりしているのは私だけじゃないんだ。
同じ志の仲間を得たような気がして、肩の力がふっと抜けたのがわかった。
13時。司会者に続いて柔和な笑みを浮かべた女性講師が登壇し、セミナーが始まった。
「さて、皆さんはいま年間どれくらいの家賃を支払っていますか？」
講師がおもむろに問いかけた。私が住んでいるマンションは築25年の1LDK、管理費込みで月額60,000円。カケル12カ月で年間72万円。
「ではその家に10年間住み続けたらいくらになりますか？」
えーと、72万円カケル10年……720万?! 家賃は必ず出て行くものと諦めて考えないようにしていたけれど、一人暮らしを始めてから払い続けている家賃は間違いなく1千万を超えているだろう。それだけお金を払っても、いま住んでいる家は自分のものにはならないのだ。改めて現実を突きつけられて愕然とする私。一様にショックを隠しきれない参加者に、講師が寄り添うように言葉をかけた。
「働く女性が将来を考える時、一番不安に思うのは『お金』と『住まい』ではないでしょうか。でも、将来のために貯蓄したくても家賃負担が大きくてお金が貯まらないという人は多いんですよね。しかも今は超低金利時代ですから、ただ貯蓄するだけではお金は増えません。今日は『お金』と『住まい』の不安を解消するひとつの方法としての『不動産購入』についてお話したいと思います。不動産購入と聞くと『ローンを払い続けられるか心配』という方が多いかもしれませんが」
続けて講師が発した言葉に、会場の空気が一変した。
「住宅ローンは借金返済ではありません。あなたを豊かにする貯金です」
それからの1時間は目からウロコの連続だった。休憩タイムに出されたコーヒーとケーキを口に運びながら、私は優衣と沙織にお礼を言った。
「二人に背中を押されてセミナーに参加してよかった！ 金利と住宅ローンの関係性とか、消費税増税とか。知らないことだらけでいろいろ勉強になったよ」
「私はフリーランスで住宅ローンを組むのは無理だと思ってたから、今日は彩の付き添いのつもりだったけど、フリーランスが審査にパスする基準を教えてもらって希望が湧いてきたよ。家を買って逆プロポーズしちゃおうかな！」
年下の彼が頼りないと常々嘆いていた沙織が目をキラキラさせて言い、優衣も大きくうなずいた。
「私も、独身でマンションを買ったあとに結婚することになったらどうすんの！って思ってた。でもいろんな運用方法があるとわかって、心配するのがバカらしくなっちゃった。まだマンション購入も結婚も決まってないのにね。ハハハ」
優衣が大きな声で笑ったあと、何かを思い出したように言った。
「そういえば彩、黒田くんが東京から戻ってくるらしいよ」
「え？」
危うくコーヒーでむせる所だった。
「黒田くんの会社と九南大学の共同研究で、期限付きで九南大に派遣されるんだって。取引先に偶然黒田くんの高校同期がいてね、教えてくれた」
黒田建斗。遠距離恋愛の末に別れてしまった元彼だ。久しぶりに聞く名前に私はひどく動揺していたけれど、努めて平静を装った。
「へぇ、そうなんだ」
「黒田くんもまだ独身だってよ。マンションを買ったかどうかは知らないけど」
からかうように優衣が言い、どう返そうか迷った瞬間「セミナー第二部、始めまーす」とアナウンスが響いた。
to be continued…
全7話・毎週金曜日配信
WEB小説「角を曲がれば」あらすじと登場人物はコチラ
