マナーは〇か×かではない。相手を思いやり、自分で選択肢を導き出し、選ぶもの。
研修講師という肩書を知らなくとも、白梅さんとはじめてお会いすれば、「凛とした女性」という印象を多くの人が受けるだろう。
「相手に与える自分の印象をコントロールすることはとても難しい。それでも相手を思いやり、少しの工夫を示せるかどうかで、与える印象をポジティブなものにしていける」と白梅さんは話す。
白梅さんが考えるマナーはルールではない。相手に配慮して、今その瞬間にできることの選択肢を洗い出し、適切なものを取捨選択することだ。
「たとえば、(最初はドキッとしましたが)ペットボトルのお茶をそのままお客様にお出しする企業もあります。従来のビジネスマナーでは、急須でお茶を淹れてお出しするのが一般的であり、ペットボトルのお茶をお客様にお渡しすることはありませんでした。しかし、昨今の猛暑の日には、ご足労いただいたお客様に対して何も出さないより、冷えたペットボトルのお茶をお渡しすることで喜んでいただけると思いませんか」
接遇・ビジネスマナー講師として業界歴も長く、信頼も厚い白梅さんが、いったいなぜ、一般的なマナーにとらわれることなく、時代のマナーを再定義する必要性を説くのか、白梅さんのこれまでのキャリアを遡る。
フラワーデザイナーの母親に憧れ、生涯現役で働くことを決意。
「私の両親は花に携わる仕事をしていました。母はお客様に喜んでいただけることを常に考えていました。何か新しいことに挑戦しているときに、母はひときわ輝いていました。当時、日本で数名しかいなかったフラワーデザイナーを東京から福岡にわざわざお呼びして、フラワーアレンジメントを習っていた姿は今でも鮮明に覚えています。おそらく、母が福岡ではじめてのフラワーデザイナーだと思います。そんな母の姿を見て、幼少期から生涯現役でずっと働きたいと思っていました」
短大を卒業した白梅さんは、「生涯働ける職場」として日本長期信用銀行を選んだ。しかし、就職すると理想と現実は大きく違っていた。
「ほとんどの女性が結婚したら辞めてしまうんですよ。最初に配属された債券担当の仕事は、失敗して怒られてばかり。『銀行員の仕事は向いていないな』と思っていました」
そんなときに金融法人担当への異動の辞令。この頃から上司の秘書としての役割も担うようになった。スケジュール調整や接待の段取りを超えて、顧客と上司が「良い雰囲気」で話を進めるために必要なことはいったい何か、常に考えていたという。顧客や上司からの評価も得て、秘書業務に大きなやりがいを感じていた。
「秘書という専門性を極めたい」と徐々に思うようになり、転職を決意。女性の転職がまだ珍しかった時代に、白梅さんは自身が成長でき、キャリアアップできる場を求めて、本当に銀行を辞めてしまった。
専門スキルを身につけて、独立。仕事がないときは、仕事を作るための仕事に専念。
留学しようとしたり、東京で就職しようとしたりしていたところ、目に飛び込んできたのは、福岡の専門学校の秘書科講師募集の求人。自分自身の経験と専門性を活かせる魅力的な機会だった。実際、秘書という専門性を活かして、人を育てる仕事に大きなやりがいを感じて働くことができたという。
そんなときに、お父様の急逝で家業を継承するために専門学校を退職。
1年後、出産のため一時専業主婦へ。いざ専業主婦になってみると、自分なりに考えて工夫することにやりがいを感じる白梅さんらしく、家事も効率化し、いつしか1日の中ですきま時間ができ、持て余していた。
「家事や子育てだけでなく、すきま時間を自分のために使いたいと思うようになりました。そんなときに、専門学校講師時代の先輩から、社会人研修を手伝ってもらえないかとお声掛けいただきました。」
働きたい気持ちは十分にあったが、正社員として勤務することには抵抗があったと話す。そこで、選んだのはフリーランスの研修講師としての働き方。仕事を少しずつ始めただけでも、関わる人が増え、世界が一気に広がった。
さらに、2000年に個人事業主として仕事をする覚悟を決めた。やるからには高いプロ意識をもってやりたかったと当時を振り返る。
「独立をして、幸い仕事には恵まれていました。もちろん、仕事が少ない時期もありました。ただ、私はそういうときは、自分の知識やスキルを高めるために勉強をしていました。つまり、仕事を得るための営業ではなく、仕事を得るためのインプットに専念していました。」
専門性を深堀するよりも、汎用性の高いスキルをかけ合わせた方が、レバレッジが効く。
独立後も仕事が順調に進む一方で、仕事で出すアウトプットに限界を感じるようになったと話す。
「得意な人材系の話であれば、いくらでもできましたが、それ以外の分野にはあまり興味がありませんでした。しかし、地元の福岡だけでは、人材系のセミナーや勉強会に行っても、メンバーや内容が固定されてしまい、専門性を深めて学ぶことに対して飽和状態でした。経営者と経営について話す機会が多くなり、経営全般を体系的に勉強した方が、自分の仕事の幅や厚みもでると思いました。」
そこで、実践で活用できるビジネススキルの習得に焦点を当て、日本全国にも幅広いネットワークのあるグロービス経営大学院への入学を決めた。仕事と学業との両立は大変だったが、学ぶことの愉しさを再認識できた。
「グロービスでは、思考力やマーケティング、リーダーシップなど多くの科目を学び、ビジネススキルが大きく底上げされました。そこに私が持っている人材育成、組織開発の専門性がかけ合わされることで、大きく成長できました。大変でしたが、それ以上に、お客様とお話しできる内容が充実してきて、喜んでいただけるようになりました。また、成長意欲の高いビジネスパーソンが多くいる場に身を置くと、感化されて、自分ももっと頑張ろうと刺激をもらえます。困ったときに相談をしようと思える人たちにも出会えました。」
2019年5月。子供の大学卒業と同じ年にグロービス経営大学院を卒業した。卒業という一つの節目に、あらためて白梅さんは経験を重ねながら、こう振り返る。
「ワークライフバランスは今の生活だけを見て使われる表現ですが、人生をトータルで見て、ワークライフバランスを考えていくべきだと思います。子育てに集中する期間、仕事に集中する期間、仕事をさらに充実させるために勉強する期間も、全て踏まえて自分の人生を楽しめるように設計すれば、人生の全体を通してバランスは取れていきます。また、環境の変化が早く、働く期間も長くなっているので、年齢、性別に関係なく、学ばない人はやっていけなくなる時代だと思います。人には得意、不得意があって当然なので、それを理解し、補い合っていくことがお互いにハッピーになる方法だと思います。私は女性ですが、男性を羨むことなく、女性だからと悲観することなく、仕事をしてきました。これからが勝負です。ビジネスパーソンとして人に信頼されるために、人間力を磨き、人を巻き込んでいきたいと思います。」
女性がもっと楽しく、そして自由に働ける武器をもてるよう、今日も白梅さんは凛とした雰囲気をまとい、時代にあった組織づくり、人づくりに尽力されている。
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