夏本は職場の先輩。
特にタイプというわけでもなかった。
遠距離の彼氏とダメになったのが決定的になった、あの日‐送別会で愚痴っているうちに…気付いたら…そういう関係になっていた。
夏本は、あまり家庭のことは喋らない方だったが、それとなく向けると、奥さんとは離婚の話しが出ているとか口ごもっていたっけ…今になっては、それは言い訳だったのか真偽の程は分からない。
大人しい夏本は、明菜が誘うと、黙って自宅に来てくれた。特に、結婚とかを話題にしたこともなかったけど…。
弁護士のアドバイスによれば、既に破綻している夫婦であれば、損害賠償の請求に応じる必要はないらしい…。
また、不倫は「きょうどうふほうこうい(共同不法行為)」とかで、男女半々に責任があるとか…。明菜は、この件を弁護士に依頼することにした。
幸い、夏本夫婦は離婚沙汰にまではならず、ある程度明菜が償いをしてくれたら大袈裟にはしない、とのことだった。
弁護士が交渉してくれて、150万円まで請求額を下げてくれた。
明菜は、高いなと思ったけど、払わなかったら裁判を起こすらしいと聞き、応じることにした。
弁護士は「勉強代としては高くついたかもですね。」と少し間をおいて、つぶやくように言った。
由衣は「裁判に巻き込まれて、職場にもバラされなかっただけ、まだましなのかな…」と背中を押してくれた。