GWを控えた金曜日、ナツはさっきから着信があっていたケータイをようやく取り出した。

「ん?実家からだ…」
もうすぐ帰省するのになんだろう…。
「え~っ!え~っ?!ママが?」。
お兄ちゃんが言うには、ナツの母親は、スーパーからの帰り道、自動車にはねられて救急車で運ばれたらしい。
足を骨折してちょっとした手術を受けたが、命に別状はない…とのこと。
そこまで聞いてナツは、ようやく落ち着きを取り戻した。
それから数ヶ月―。
「そうなのよ~。なんとか落ち着いたわ。リハビリも順調だし。」
「でも」とママは話しを続けた。
ママが言うには、なんでも、車の運転手が入っていた保険会社の担当者から「治療費の負担は打ち切りますよ」「早く、示談しましょうよ。」と言われている、とのこと。
お医者さんからは、リハビリを続ければ膝の痛みももう少しましになるから続けた方がいい、と言われてるけど、治療費打ち切られるなら、どうしようか迷っている、とのこと…。
ふ~ん…。
ナツは、同僚のカナが、「この弁護士、交通事故に強いらしいよ。」と言って渡してくれた雑誌の切り抜きを見て、思い切って、相談の予約をした。
ピンクベージュの背景に優しい笑顔の写真がのっていた。
当日。
「お待たせしました~」と現れた女性弁護士は、裁判から帰ったばかりと、息を弾ませていたが、写真のイメージ通りだ、とナツは思った。
ナツの話しを一通り聞いたところで、弁護士は、「リハビリはお医者さんが、これ以上続けても良くならない、と言うまで続けた方がいいですよ」に始まり、治療費も打ち切りにならないようにできること、示談するにしても、保険会社が、素人相手に提示する金額は低めになっていることが多く、一度、弁護士に見せた方がいいこと、専業主婦であるナツのママの場合も休業損害というものはもらえるとのアドバイスをしてくれた。
ナツは、示談するときには、この法律事務所に依頼しようっと、心に決めた。
急に喉が渇いてきたので、カフェに向かいながら、早速、ママに弁護士から聞いた話を電話で伝えてあげた。