山㟁 玲子(やまぎし れいこ)先生
九州大学 女性研究者キャリア開発センター
副センター長 准教授
千葉県出身。千葉大学法律経済学部卒業。米国アラバマ大学女性学部で修士号、シンガポール国立大学社会学部で博士号(社会学)を取得。2011年9月から現職。専門はジェンダー学。近年は特にセックスワーク、masculinity studies(男性学)そしてポストフェミニズムに関連した研究を行う。気さくな性格であり、玲子先生の授業は学生皆が知識を共有することを目的にしているので「学生は“先生”とは呼びません」とのこと。
ジェンダー学流・考え方養成講座。
悩みを共有する〝しゃべり場〞で課題発見力を鍛える!
「ジェンダー学」という学問は、実は私たち働く女性にもとても身近なもの。今回は、約20年間にわたりアメリカとシンガポールの大学でジェンダー関連の講義を担当し、現在は水商売など夜の世界で働く若者たちの研究や、日本とシンガポールのホストクラブの比較研究を行う山㟁玲子先生を訪ねた。社会の抱える様々な問題に詳しい先生に話を伺う。
「個人」の経験は、「社会」に共通する問題!?
玲子先生によると現代女性の社会的な地位向上に重要な役割を果たしたのが「Personal is Political(個人の問題は、社会の問題である)」という考え方。「女性の地位を向上しようというフェミニズムの運動は、まず20世紀初頭アメリカなどを中心に、女性の参政権獲得のために始まりました。しかし当時、女性に対する差別意識は個人の意識や社会構造に深く浸透していたため、参政権を得たからといって女性差別がなくなるわけではありませんでした。フェミニズム運動はその後、教育や職場など公的な場での女性の主体性を認めようという動きや、性や暴力の問題も含めた家庭や私的な領域にまで広がります。この時の柱となった考え方がPersonalis Politicalです」。
この考え方を基に、アメリカの女性たちが行ったのが〝Consciousness Raising:コンシャスネス・レイジング(意識の覚醒)〞という集まり。これは女性たちが少人数で定期的に集まり、生活での悩みをシェアするというシンプルな語り合いの場のこと。しかし、その語らいの効果は驚異的だと玲子先生。「例えば、職場で上司から不当な扱いを受けた、結婚したら家庭に入るのが当たり前だと言われたなど、個人的な悩みを語り合うことで女性たちは自分の経験や憤り、悲しみなど個人の問題は社会の問題なのだ、と初めて気づきました」。
同じ経験をした人が他にもたくさんいるという気づきは、やがて「自分たちが望む生き方を実現するために、社会のあり方を変えていこう」という認識へとつながった。
悩みを語る場が、自分の考えを深める。
玲子先生は現代の働く女性たちにも、この〝コンシャスネス・レイジング〞の場が必要だという。自分の経験を言葉にするうちに〝自分が何に価値をおき、どう生きたいと思っているか〞に意識が向けられ、自分をより深く理解するきっかけになる。「最近、憤ったり、おかしいな、嫌だな、逆にこれはいいな、と感じたことを言葉にしてみませんか? 自分の意識に焦点をあてて会話するコンシャスネス・レイジングで、ただのおしゃべりでは得られない気づきが生まれる瞬間を体感しましょう」と玲子先生。今回は、フェミニズムの歴史的発展を学んだ後、実際に〝コンシャスネス・レイジング〞の手法を使い、職場や家族関係、キャリア、自分の将来など様々な悩みを共有する。自分の価値観や考え方を改めて見つめ、自分の心の中や社会にひそむ課題を見い出す力を養おう。