2017年4月29日(土)スタート!
『北九州市漫画ミュージアム』の人気企画「海峡マンガ合戦・第12弾」は、遠野かず実先生に決定!
ひとくちにマンガと言っても、風刺漫画・ストーリーマンガ・イラストエッセイ、海外にはコミック・ストリップやバンド・デシネなど、多種多様な表現方法があります。平成24年に誕生した『北九州市漫画ミュージアム』では、蔵書約5万冊の閲覧とともに、幅広いマンガの展示企画が楽しめます。4月29日からは、九州・中国地方で活躍するマンガ家を紹介する「海峡マンガ合戦」で、「遠野かず実作品展」の開催が決定しました。企画展示準備が着々と進む中、学芸員の石井茜さんとともに、遠野かず実さんに創作秘話を伺いました。
マンガ家/遠野かず実先生(左) 北九州市漫画ミュージアム学芸員/石井茜さん(右)
ファンタジーやミステリーも描く守備範囲の広さ、その理由は?
石井さん(以下 石):先生の作品はストーリーものからエッセイまで、手掛けるジャンルもすごく幅広いのですが、何か影響を受けたものなどはありますか?
遠野先生(以下 遠):山岸涼子先生の『アラベスク』などスポット的に心酔しているものもありますが、それ以外では、映画をよく観ます。ヒッチコック監督のサスペンスとか。2作品目でデビューしたもので、お話をどう描いたらいいのか、私は描く術を知らなかったものですから。最初のうちはドラマの脚本のhow to本を読んだり、トリュフォーがヒッチコック監督の作品を解説した「映画術」という分厚い本を読んだり、ドラマや脚本を見て場面転換から、勉強していました。“人の心をつかんでいくには”みたいな。
石:ただインプットするのではなくて、分析する目線で見ていたのですね。
遠: 最初はただ楽しんで見るんですけど、2~3回目に、「何でこれ面白いのかな」「何で面白くないのかな」と自然と考えています。ラブストーリーものは他のマンガ家さんもたくさん書いているので、引っ掛かりが他の人と違うものを探してます。
石: 歌舞伎を舞台にした平成8年の作品『双晶宮』では、歌舞伎のディテールも繊細に描かれていますね。
遠:着物の柄の意味からはじめて、歌舞伎の世界を相当勉強しました。 ”お腹にいるときは男女の双子なんだけど、なんらかの理由で一人で生まれてきた“ というSFのネタを思いついて、このネタが自然な舞台は歌舞伎だなと考えついてしまって。歌舞伎を知らないので最初の1カ月は、別の舞台を必死に考えました。でも思いつかなくて。描いた頃は情報が少なく、ビデオもなかなか手に入らない時代で。
石:「歌舞伎を全く知らなかった」とあとがきで知って驚きました。
遠:資料代が重みました(笑)。その後困ったことに、 ”遠野は和モノも描ける“ という誤解を生みまして。世阿弥関係の仕事依頼が来て、「能が来たか…」とまた猛勉強したり。
双晶宮 全2巻/偕成社
遠野さんは自他共にみとめる漢方マニアとのことですが…
遠:みんな外見には気をつかうのに、自分の体を労わってないというか。例えばコーヒーと冷えの関係とか、肝臓が弱っている春と旬の山菜の関係とか、だんだんと分かってくると日常で調節できるものが漢方には多いんですよ。ちょっとずつ、食生活を見直していく気づきみたいな。
石:そこで先生の最新刊『私は漢方美人』です(笑)。いわゆる未病の状態に対処する方法が本当に沢山の例で示されているのが面白いです。実践のしやすさも魅力ですね。これはご自身の体験からですか?
遠:自分の手術後遺症の経験からも描いています。術後、突然声が出なくなって。西洋医学では原因が分からなくて、耳鼻科の診断では声帯が半分動いてないと。どうやら、切ったところが声帯に近くて、そこに体液が回ってない可能性があることが分かって。それは漢方で治ったと思っています。ただ、このマンガは漢方を売ることが目的じゃないし、これが自分に効いたとかではなくて、「人に言えなくて悩んでること」「人と比べる機会が少ないようなこと」を丁寧に描きたいですね。
石:自分の体と対話するのが必要だと新刊を読んで思いました。
遠:すごく疲れているときでも、何気なく読めるのがマンガの良いところだと思います。気楽にページを開いてもらえれば嬉しいです。
わたしは漢方美人/集英社クリエイティブ
石:作家さんによって違うと思いますが、遠野さんの作品制作の手順はどのようなものですか?
遠:まずはプロットを箇条書きで書いて、1から10までふって、それに向かって描いています。1ページ目が一番難しいです。みんなに“おっ!”と思って読み進んでもらわないといけないから。それから下絵をして、ペン入れは同時です。コマ割をやっているときに効果や画面が既に頭にあるので、そこにいかに近づけて落とし込むかという作業です。最後は原稿をスキャンして、パソコンで効果を少し足します。
石: 今は半分アナログ、半分デジタルという感じでしょうか。
遠: 手書きの部分は残したいので、私の場合は8:2くらいでしょうか。写植も全部自分で作業しています。例えば“ズドーン”の効果文字も、いろんなタイプの書体がありますよね。以前は原稿を提出して、担当さんのセンスにおまかせしかなかったんです。イメージが合わなくても我慢する、せいぜい単行本のときに直すくらいしか出来なかったんですが、今は地方の作家でもその辺を自分でやれるのもいいですね。
石: 今はデジタル入稿もあって、東京とのタイムラグも少ないですよね。
遠:原稿をスキャンして、元原稿はもう送らなくていいですよってとこも多くなりましたね。
石:地元で書くプラスの面は他にありますか?
遠:のんびりマイペースで出来る点が楽ですね。地方は漫画家同士の付き合いが少ないので、別の職種の人と色々話すのもためになります。東京にいると、漫画家同士、編集さんとの付き合いばかり増えてしまって。同じ業界の人とはFbとかTwitterとかで簡単に繋がれますしね。下関に住んでいますが、福岡も近いので、美術館にも頻繁にいけますし。出来るだけそういうのは行くようにしていますね。
石:インプットを大切にされてるんですね。
遠:出つくすと、入れていかないと何も出ないです(笑)。どうしたら漫画家になれるのかデザインの学校で教えてもらえる世の中になりましたが、いろんなところに出かけて、いろんな人に会って、吸収するのが漫画家になるには何よりだと思います。今デジタルアシスタントさんとかもいますが、信頼できる人は、やっぱり紹介された人ですね。そういう人脈づくりも大切だなと思います。
そんなバナナのひみつ。/集英社
最後に展覧会の見所をお願いします
遠:墨絵の持っている一筆書きの強さが魅力で、マンガの他に墨絵イラストも描いていますすが、今回の展覧会には、歌人の林あまりさんの短歌にイラストを描いた『Girlish』という作品から、墨絵のイラストも少し持ってきました。カラーイラストや墨絵+CG作品、写真とのコラージュ作品に加えて、未発表の書き下ろしイラストも展示したいと思っています。
石:遠野先生の、写実的でありながら透明感にあふれるカラーイラスト作品の数々は必見です。この機会にぜひ北九州市漫画ミュージアムへお越し下さい。
林あまり/遠野一実◆girlish ガーリッシュ/集英社
遠野 かず実先生
山口県下関市出身・在住のマンガ家。1985年白泉社よりデビューし、『形而上のマリア』『ラプンツェル』などSF仕立てのラブストーリーで注目される。遠野一生/遠野一実/鶴岡かずみ/遠野かず実などの名義で少女マンガ、女性向けマンガ等で活躍中。
海峡マンガ合戦 vol.12
遠野かず実先生の美麗なカラーイラスト&マンガ原稿を展示
●会期 2017年4月29日(土)~6月30日(金)
●会場 北九州市漫画ミュージアム6F
●入場 一般400円、中高生200円、小学生100円、小学生未満 無料
(※常設展示エリア内、蔵書閲覧含む)
●問合せ 北九州市漫画ミュージアム
●TEL 093-512-5077