[本の読み方を参考にしよう4]文学者に聞く、生き方が変わる本

世の中にはどう生きるべきか、悩みや苦しみをどう解決すべきか、幸せをどこに求めるべきかなど、生き方に関する本がたくさん出ていますね。しかし小説も捨てたものじゃない。小説を読む醍醐味の一つは、描かれている人間とそれを描いている言語表現の両方を楽しみ味わいながら、人間の生き方を身に沁みて知ることです。つまり「人間、この不思議なもの」と「言葉、この不思議なもの」に同時に目が開(ぼつご)かれる。

間もなく歿後100年を迎えますが、その意味で凄いのは何といっても夏目漱石でしょう。なかでも未完の遺作「明暗」が一番のおすすめです。新婚夫婦の人間的葛藤と、それに絡まる多様な人間たちの確執を描いた一種の心理小説ですが、人間の、男の、女の複雑さ、人間関係の複雑さが、複雑さそのままに鮮やかに描かれている。むかし女子学生諸君には、もし将来結婚しようという段になったら、その前にぜひ「明暗」をお読みなさい、主人公の津田を見れば男というものがよく分かると言ったものです。つまり男を知る上で、いやいや女を知る上でも、これは第一級の参考書です。

ドイツ文学者 │ 池田 紘一さん
九州大学名誉教授。西日本日独協会会長。前・長崎外国語大学学長。2008年西日本文化賞受賞。西日本を代表するドイツ文学者。

written by 編集部