「日本の未来、炭鉱のまちで考える」
五木寛之さんの小説「青春の門」の続編が、23年ぶりに新年から再開されるという。主人公が生まれ育った筑豊は、かつて日本のエネルギーと経済発展を支えた、炭鉱のまちの一つだ。田川市に行ったとき、復元された長屋の炭鉱住宅に足を踏み入れ、世界記憶遺産の山本作兵衛の絵を見ながら、質素でも懸命に生きた炭坑夫たちの暮らしぶりを想像したことを思い出す。
炭鉱のまちと言うと、大牟田や荒尾のように竪坑櫓の跡が残る、遺産のイメージが強かった。しかし、田川から直線距離で約1400キロほど、この夏に初めて訪れた北海道夕張市では、「炭住」での暮らしがなお健在だった。東京23区よりも広い市内には、田川の復元家屋に似た長屋と、無人島の長崎・軍艦島で見たような団地型の建物が連なる地域が点在する。崩れ落ちそうにも見える昭和時代のつくりの古びた建物の窓には、ぽつぽつと明かりが見えた。
夕張は昭和30年代に12万人弱いた人口が9千人を切り、高齢化も進んで10年前に財政破綻した。鈴木直道市長は「ある日突然、人もまちも消えることはないのです。高度経済成長とは逆方向の『逆再生』を考えるしかありません」と話してくれた。
行政サービスは大きく縮小され、残った住民は値上げされた市民税を払いながら駅のトイレ掃除など自分たちにできることを手がけ、高校生も市の計画策定にかかわるという。高齢化に人口減、そして財政難。ニュースでよく見かけるキーワードでも、実感は薄かった。しかし夕張には、その現実が目の前にあった。
「城」が消えたまちの、未来の姿。鈴木さんは問いかける。「AI(人工知能)が自動運転する時代には、いまの自動車もその企業城下町も、役割がなくなっているかもしれません。どう『自分事』と、考えますか」。
朝日新聞東京本社 オピニオン編集部次長
伊藤 裕香子さん
静岡、盛岡支局を経て経済部記者。福岡県には2回赴任し、九州・山口地方の企業を中心に計5年取材した経験を持つ。今年5月から現職。