取り決めした婚姻費用を払ってくれない。どうしたらいいの?
状況にあわせて、調停・履行勧告・強制執行などの手続きが考えられます。
これまで2回にわたって、別居中の生活費(婚姻費用)の内容や分担方法の決め方についてお話してきました。
婚姻費用の分担方法を決めた後は、その取り決めに従って、「婚姻費用を支払うべき」とされた人(義務者・債務者)が、「婚姻費用を支払ってもらえる」人(権利者・債権者)へ、決まった金額を支払っていくことになります。後日改めてお話しますが、子どもの生活費である養育費についても同じです。
しかしながら、決まったとおりの支払いを、してもらえないこともあります。
このような場合、義務者に支払いを求める連絡をしたり、話し合いをして、支払ってもらえる場合もあります。
他方で、それでも義務者が支払わない場合や、連絡や話し合いが難しい場合は、どうしたらいいでしょうか。
まず、当事者どうしで取り決めをしていて、公証役場での公正証書作成、家庭裁判所の調停・審判などをまだ行っていない場合には、家庭裁判所へ調停申立をして、家庭裁判所をとおした婚姻費用の取り決めを求めていくことになります。
婚姻費用の取り決めを、調停や審判など、家庭裁判所をとおして決めているのに支払ってもらえないという場合は、家庭裁判所へ申し出て、家庭裁判所から義務者に対し、取り決めを守るように促してもらう方法があります(「履行勧告」といいます)。費用はかかりませんが、強制力はなく、義務者が従わない場合もある手続きです。
それでも義務者が支払わない場合には、公正証書・調停調書・審判書など、強制執行力のある書面を作成している場合に限り、強制的に相手の財産を差し押さえる、「強制執行」という手続きをとることができます(「公正証書」については、次回に記載をしてみますね)。
強制執行は、地方裁判所へ申し立てをします(家庭裁判所ではありません)。
自分の権利を証明する書類(公正証書・調停調書・審判書など)、義務者の財産の所在(給与差押えの場合は勤務先、預貯金の場合は取り扱い金融機関)などを明らかにして行う必要があります。なお、義務者も生計維持を維持する必要があるため、一定の差押禁止財産など、差押のルールがあります(給与の場合は、通常は4分の1しか差押できません。もっとも、婚姻費用・養育費に関する差押に関しては給与の2分の1まで差押えできるようになっています)。
平成16年からは、婚姻費用・養育費に関する給与を差押えについては、すでに滞納している分だけでなく、それ以降の将来分についても、取り立てを続けることができるようになっています。
なお、強制執行については、より差押えをしやすくするための法律(民事執行法)改正の動きもありますので、気になられる方はチェックをしてみてください。
このように、強制執行は強制力のある有効な手段ですが、これを利用できるのは、婚姻費用等を調停や審判、公正証書などで取り決めている場合に限られます。特に養育費については、支払いが長く続くものですから、途中で支払いがとまってしまうということも少なくありません。万が一の時のために、強制力のある方法で取り決めをしておくことをおすすめします。
長崎県出身。西南学院大学法学部卒業、中央大学法科大学院修了。2015年、弁護士登録・当事務所に入所。 関わる人たちの悩みを解消して、心からの笑顔を取り戻す手助けをしたいと思い、弁護士を目指す。趣味はミュージカル鑑賞や、室内インテリアのシミュレーション。
女性協同法律事務所
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女性協同法律事務所について
「女性による女性のための法律事務所・女性の権利のための法律センター」を目標に、1989年に事務所を設立。現在では11名の女性弁護士が在籍している。相談者は圧倒的に女性。離婚事件が多く、相続などを含めると約6割が家事事件。つづいて破産・負債整理、セクシュアル・ハラスメントを含む労働事件、少年事件・刑事事件、性暴力や医療過誤、交通事故や学校事故などの損害賠償請求事件、通常の契約をめぐる事件など。法人のメリットをいかし、長期間にわたって「お一人様の老後」の世話をする成年後見の業務にも携わる。