インタビュー

伊藤 はつ江さん/痛みも悔しさも、すべて希望に変えていく。

 

伊藤 はつ江(いとう はつえ)さん
一般社団法人 先天性ミオパチーの会
理事

Profile/1970年北九州市生まれ。会社役員、不動産会社勤務を経て、2000年新日鉄エンジニアリング株式会社(現 新日鉄住金エンジニアリング株式会社)に派遣社員として入社。2012年「先天性ミオパチーの会」発足。署名活動や講演会、患者相互の情報交換サイト運営を通して北九州から全国に情報発信している。「第6回北九州ワーク・ライフ・バランス表彰」個人部門で市長賞を受賞。

http://www.sentensei308.com

痛みも悔しさも、すべて希望に変えていく。

会社では役員秘書や庶務全般を担当する伊藤はつ江さん。フルタイムで働きながら、息子とともに「※先天性ミオパチーの会」を設立し、3年目を迎えた。「あきらめたらだめだ!」をスローガンに、病気の理解と医療体制の充実を目指して活動している。

学んで力をつける

中学卒業後は専門学校に通い、18歳から働き始めた。20歳で結婚、翌年に息子が生まれた。ハイハイをしない息子を見て、何か変だと思った。幼稚園ではよく転び、走るのが極端に遅いため、入学前に検査を受けた。北九州で筋肉を採取し、東京の病院から届いた結果は「先天性ミオパチー」だった。

小児科の主治医によると、筋力をつける努力をしながら普通に生活できるという診断だった。「病名は知りましたが、元気に遊んでいたので、たいしたことはないと思っていたんですよね」と当時を振り返る。

26歳のときに離婚し、企業に就職した伊藤さん。高校卒業の資格を得るために、27歳で通信制の高校に入学し、週1回ほど博多へスクーリングに通った。「16歳から70歳までの生徒がいました。いろんな人と一緒に勉強できておもしろかったです」。

高校卒業を機に会社を辞めて職業訓練校に通い、パソコンや秘書業務を学んで数々の資格を取得した。その後、現在の会社に勤めるようになった。

適切な治療を求めて

息子が高校の修学旅行から帰った翌日、状態が急変した。人工呼吸器を使用した在宅療養生活が始まり、入退院を繰り返しながら高校を卒業。伊藤さんは回復しない病状に疑問を感じ、東京の専門医を訪ねた。「そこですべてわかったんです。今までの治療は適切ではなかったし、私の判断も間違っていた。もっと早く専門医に診せていれば…と心から悔やみました」。

自責の念とともに、主治医に対する怒りが湧いてきた。弁護士に頼んで追及しようとする姿を見て、息子が言った。「そんなに頑張るんだったら、同じ病気の人たちを助けることをしようよ」。

ミオパチーを診断できる医師は極めて少ない。厚生労働省の難病指定を受けることで病気が広く認知され、医療連携や治療環境が改善されると思った。伊藤さんは「先天性ミオパチーの会」を設立し、息子とともに活動をスタート。イベントなど人が集まる場所に出向いて地道に署名を集め、東京の専門医による医療講演会も定期開催するようになった。

思い立ったら即行動

昨年、伊藤さんは「京都大学iPS細胞研究所」に筋肉再生の研究者がいることを知った。何とか接触したいと思い、京都大学出身の上司に紹介を依頼。無茶振りと上司に言われながらも、4人を経由してなんと主任研究者に繋がった。すぐ京都に会いに行き、研究のために息子の皮膚細胞を提供。主任研究者を招いた講演会「iPS細胞研究の最前線」も北九州で企画し、全国から約350名が参加した。

4月には東京へ行き、10人の支援者と一緒に厚生労働省へ9万人の署名を届けた。20人の国会議員と会い、難病指定に向けた陳情も叶った。「会の活動をしてから、人に感謝することが増えました。体験を無駄にしないで、今からやっていくことは絶対に希望に変えちゃろう! って思うんです」と朗らかに語る伊藤さん。持ち前の明るさと行動力で、まずは難病指定を目標に新たな可能性を切り拓く。

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