磯貝 浩久(いそがい ひろひさ)先生
九州工業大学 情報工学研究院人間科学系 准教授 人間環境学博士
1962年新潟県生まれ。九州大学大学院人間環境学研究院博士後期課程修了。博士(人間環境学)。福岡大学技手、九州大学助手、九州工業大学講師を経て現職。運動行動のメカニズムに関する研究を行っている。福岡県体育協会医・科学委員(スポーツ心理)。競艇学校等でメンタルトレーニングの指導を行っている。
トップアスリートは、メンタルも鍛えている。
そのトレーニング方法とは?
フィギュアスケートの浅田真央選手、日本一となったなでしこジャパン。スポーツ選手は、私たちにとびっきりの感動を与えてくれる。その魂がゆさぶられるような感動の裏側には、並々ならぬ練習の積み重ねがある。日々の練習では身体能力を高めるとともに、鍛えていくのが「メンタル」。本番に向け気持ちを高め、最高のパフォーマンスを聴衆の前で披露するスポーツ選手のメンタルの鍛え方について九州工業大学で人間の運動行動のメカニズムに関する研究をしている磯貝浩久先生に話を聞いた。
イメトレは質が大事。
「イメージトレーニングという言葉は、よく耳にすると思います。実際にされたことがある方もいらっしゃると思いますが、トップアスリートとの違いは何だと思いますか? それは、“質の高いイメージ”を思い浮かべているかどうかの違いです。質が高いというのは、鮮明性と統御(とうぎょ)可能性があるものを言います」。鮮明性というのは、目で見るような視覚的なイメージではなく、においや音など五感で感じるほど鮮やかなイメージをするということ。統御可能性というのは、そのイメージしたものを展開できる状態にすること。例えば、静止画だったイメージを動画にするようなものだ。この鮮明性と統御可能性を併せ持った質の高いイメージが浮かぶように意識することで、実践のパフォーマンスで効果が出せるのだ。
また、メンタルを考える上で切り離せないのが、「緊張」。「緊張をなくすという言葉のようにあるかないかで判断されやすいですが、なければいいという考えで捉えません。緊張はコントロールするものです。緊張と実力発揮には関連性があり、ある程度の緊張感がよりよいパフォーマンスをもたらすとされています」。また緊張度合いは、内容や個人によって、どの程度の緊張感をもつといいかも変わってくる。
では、なぜ緊張するのか? 緊張するのは、物事に対して、「失敗してはいけない」などの考え方が要因の場合が多い。「その緊張をよい方向へ転換するには、この試合に集中しようなど考え方を変えること、または身体を使って緊張を和らげる方法をとります」。例えば、漸進的筋弛緩法とは、筋肉にギュっと力を入れる、その倍の時間をかけて筋肉への緊張を緩めてあげるというもの。それらの手法を使い、緊張をうまくコントロールして本番に挑むのだ。
鍛えたい、メンタル。
「スポーツ選手が使う技法で、“パフォーマンスルーティン”というものがあります。イチロー選手が取り入れているので有名ですが、試合などがはじまる前にいつも決まった一定の動きをすること。そうすることで、リラックス効果をもたらし、よしいけるぞ! という心理的準備を行ないます」。集中力を高めるのに、役立つものだ。
今回のゼミは、実際にメンタルトレーニングをやってみよう。スポーツ選手が実際に行なっている自信につながる目標設定の方法も学んでいく90分。メンタルを鍛え、目標を達成できる自分になろう。