インタビュー

花田 伸一さん/まちに「面白がり」を増やすためにアートな仕掛けを作る

花田 伸一(はなだ しんいち)さん
キュレーター、大学非常勤講師(美学・美術史)
福岡市生まれ。北九州市立美術館の学芸員を11年間務めたのち、フリーのキュレーターに。美術の社会的機能に着目しながら、北九州を拠点に調査・企画に携わる。主な企画に「6th北九州ビエンナーレ~ことのはじまり~」「福・北美術往来」「千草ホテル中庭PROJECT」「ながさきアートの苗プロジェクト2010 in伊王島」ほか

花田さんへ3つの質問

1. この仕事に向いている人は?
楽観的な人。(天然ではなく)

2. あなたのバイブルは?
マンガ世代らしく手塚治虫の「火の鳥」。世界観の広さ、スケールの大きさに圧倒されました。中学生時代に読んで、割と影響を受けているのではと思います。

3. あなたのメンターは?
これまで出会った表現者すべて。

まちに「面白がり」を増やすために
アートな仕掛けを作る

「美術館時代は、主に館内で展覧会の準備に携わりました。企画して作品を集め、会場を作ってお客さんに観てもらう。開催前日までが学芸員の仕事のピークでした。でもやり続けているうちに、もっとお客さんと共同作業をしながら何かやりたいと思い始めたんです」。

花田さんは北九州を拠点に活動するフリーランスのキュレーターだ。キュレーターとは学芸員のことで、博物館・美術館等の展覧会の企画を担う専門職。展覧会といえば通常、館内に展示された作家の作品を鑑賞するイメージだが、花田さんの仕掛ける企画はまちの中で人々と一緒に展開するアートプロジェクトや市民参加型などユニークなものが多い。

まちの人々を巻き込んで生まれてくるもの

「まちの人と一緒に何かを作り上げるライブ感がいい。それも関わる人や状況の変化に応じて目標も計画もどんどん変わるようなものが面白い」。2001年に企画した「ことのはじまり」では、江戸時代に白象が長崎街道を歩いた歴史にちなみ、作家が市民と一緒に巨大な象を作って、実際に街道を歩いた。歴史を知るお年寄りが面白がって象に集まり、そこで交流が生まれた。また、明治期の川ひらたという石炭輸送船を再現して遠賀川を下った時には、プロジェクトに興味を示した各地域の自治体が「わが町の誇れる歴史」としてイベントを開催。展覧会を通して地域それぞれ独自の盛り上がりを見せた。「日常とは違う“変”なことが起こったときに、どれだけ寛容さと好奇心を持って面白がれるか。まちに「面白がり」がどれだけいるかで、そのまちの柔軟性や発想の豊かさ、創造性が伺えます。そういう人をもっと増やしたいですね」。

観る人を作り手へ変える2012年秋

アートをより楽しむためには、「観る力」を養うことも有効だと花田さんはいう。「ひとつの作品を見て自分はどう感じたか、なぜそう思ったかを考えて言葉に置き換えること。複数の人と一緒に観て、考えの違いを確認しあうこと。そうすれば自分の引き出しもできて、他人の考え方もインプットできる。こうやって様々な視点を持つことは対人関係にも役立ちます」。

10月には「街じゅうアートin北九州2012 ART FOR SHARE」という大きなプロジェクトが控えている。美術家のアイデアや想像力で地域の魅力を掘り起こし、そこへ市民が参加して一人ひとりの創造力を高めるというものだ。「カラオケを楽しむような気軽さで、まちの人々にもアートのプレイヤーになってもらいたい」。まちの人々を、観る人からさらに作り手へと導く、そのための仕掛けを準備中だ。アートを通じて見える世界はとても豊かで広い。花田さんはこれからも様々な仕掛けでその面白さや可能性を、肩肘を張らずに飄々と伝えていく。

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