インタビュー

タナダユキさん/逃げたらもっと苦しくなる 覚悟を決めて 前を向いて

タナダユキさん
映画監督・脚本家・小説家
1975年北九州市生まれ。2001年『モル』で第23回PFFアワードグランプリ及びブリリアント賞受賞。2004年『月とチェリー』は英国映画協会の「21世紀の称賛に値する日本映画10本」に選出、2008年『百万円と苦虫女』で日本映画監督協会新人賞を、2014年『四十九日のレシピ』で中国金鶏百花映画祭国際映画部門監督賞受賞。2013年には小説『復讐』を上梓。『ロマンス』DVDが2月10日発売。監督最新作『お父さんと伊藤さん』が2016年秋公開予定。

逃げたらもっと苦しくなる 覚悟を決めて 前を向いて

タナダユキさんの映画監督デビューは若干26歳。伝説のフォークシンガーの日常を追った作品「タカダワタル的」は、2004年東京国際映画祭の特別招待作品となり、脚本・監督を務めた「百万円と苦虫女」では第49回日本映画監督協会新人賞を受賞、蜷川実花監督作品「さくらん」では脚本を担当。2年前には北九州が舞台の小説「復讐」を刊行し、文壇でも注目された。しかし、そんな華々しいキャリアの裏側では「びっくりするほど食えない世界」で生きる厳しさも、身を持って経験した。

「好き」を仕事にするために

幼い頃から空想好き。小学3年生で自作の物語を先生に見せるなど、既に創作欲の片鱗があった。演劇に興味を持ち、舞台制作の仕事を夢見て高校卒業後に上京。しかし、様々な舞台を見るうち、腹から声を出す舞台表現ではなく「より自然でリアルな世界を表現できる」映画の芝居の方が合うかも、と21歳で映像学校へ入学。アルバイトをしながら1年間学び、フリーター生活も経験した。

「今焦って映画を撮っても、きっと中味のない独りよがりなものになる。まずは自分の引き出しを埋めようと」。描きたいのは、普通の人。誰しも心の傷や葛藤を抱え、人生がうまくいかない時もある。それでも生きていくしかない。そんなリアルを表現するため、普通の生活をしながら制作資金を貯めた。

25歳で作った初監督作品「モル」が、自主映画の祭典「PFF」で受賞。一躍脚光を浴び、「これで仕事が入る」と思ったが、現実は甘くなかった。「アマチュアの賞をとっただけでは、仕事を待っていてもこないのだと分かりました」。必死に企画書を書き、手当たり次第に営業した。映画ライターの紹介で、蛭子能収氏が監督するフィルムのメイキングに関わって初めて、プロのカメラマンや助監督の仕事を見た。ドキュメンタリー未経験ながらも「タカダワタル的」の監督を引き受けた時は、百戦錬磨のプロ集団に放り込まれたが、とにかく夢中で現場をこなし、編集に没頭した。だが忙しさに比べて収入は安定せず生活が成り立たない。空き時間にバイトを掛け持ちして糊口を凌いだ。

30歳を目前に、退路を断つ

「アルバイトを一切止める」。29歳で覚悟を決めた。「バイトをしていたら、いつまでもこの仕事で食えない気がしたんです」。映画制作はアマチュアもプロも、どちらも苦労する。ならばちゃんとプロとしてお金をいただく苦労をしよう、と。腹をくくった後は、CMや短いTVドラマの脚本、映画の予告編制作など、映像関係の仕事は何でも受けた。

それから10年。膨大な予算が必要な映画制作の現場は、相変わらずシビアだ。既に日本映画界の若手注目株となったタナダさんでさえ、脚本を書いた作品の3分の1は実現せず白紙になった。「クランクインまでは不安とプレッシャーで逃げ出したくなる。けれど、逃げたら今より余計に苦しくなるから、やるしかない」。それでも、多くのスタッフや俳優の力が結集し、想像を超えたいい芝居がカメラに映し出された一瞬に、すべての労苦がむくわれる。

タナダ監督の作品に、安易なハッピーエンドはほとんどない。登場するのは、現実にもがきながらも懸命に生きる、愛すべき人々。それは、今をていねいに積み重ねながら、澄んだ眼差しで人の本質を鮮やかに描き続ける、彼女の分身かもしれない。

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