中村 奈良江(なかむら ならえ)先生
西南学院大学 人間科学部心理学科教授 心理学博士
福岡県生まれ。1985年九州大学大学院博士後期課程終了。博士(心理学)。九大教育学部の助手を経て、1992年西南学院大学に就任。研究テーマは空間認知。好きなものは地図。地図を眺めてその土地を想像することが、至福の時間。
人の 「心理」 と 「空間」 には密接な関係があった!あなたにとっての快適な空間とは?
「福岡タワーはどちらの方向にありますか?」と聞かれたら、あなたは迷わず答えられるだろうか? 分かる人にとっては何ということもなくその方向を答えられるが、いわゆる「方向音痴」の人には容易にはわからないもの。その違いはどこにあるのか。 今回は、西南学院大学で認知心理学を用いて人の「心理」と「空間」の研究をしている中村奈良江先生に話を聞いた。
方向音痴は認識のちがい?
「方向音痴の人とそうでない人は、性格や能力の違いということではありません。知識をつくるためにどんな情報を獲得しているかが違うのです。方向感覚に優れている人は、空間を把握しようとする時の位置関係の情報をより多く獲得しています。反対に、初めて行く場所で帰り道が分からなくなる人は、方角・街並み・自分の歩いてきた道などを全体的に把握するのではなく、“まっすぐ行って右”と断片的に覚えています」。つまり、方向音痴かそうでないかは「空間の認識の違い」によるものなのだ。 方向感覚を認識する時に位置情報の量によって個人差がある一方、同じ人物でも認識の仕方の違いで変わる場合がある。「行き道はとても距離が長く感じたが、帰り道はなぜか近かった」と感じた経験は多くの人があるだろう。行きと帰りの距離は変わっていないのに近く感じたということは、「早く目的の場所に着きたい」という期待感や感情によって、距離感に対する認識が変わってしまうのだ。 つまり、方向や距離といった空間は、捉えるときの情報量や感情によって、認識が変化するものなのである。
快適な空間とは。
「突然ですが、あなたは寝る時のベットの頭の向きは部屋のどちら側に向いていますか? 部屋という空間を捉えるとき、その空間が快適であるかそうではないかは、それぞれの人が空間に対してどのようなイメージを持っているかによって変わります。窓側を頭にしている人は、部屋を真上から見た図を描いたときに窓側を“上”、反対側を“下”というイメージで捉えています」。だから入り口側に頭を向けて寝ると、頭を“下”に向けていると無意識で感じるため、その人には快適でない空間になってしまう、というわけだ。 空間とは、街や部屋だけでなく周りに居る“人”との位置関係も含まれる。横に並んで歩く時には、なんとなく上司が右側で部下が左側、彼氏が右で彼女が左側ということが多くはないだろうか。認知心理学において、右側にいる人は頼る、左側にいる人のことを保護する対象と捉える、といわれるのだが、それを知らなくても無意識のうちに、心地がよいと感じる位置関係をつくっていることが多い。 人の感じる快適さは空間との関係によって変わる。裏返せば、生活空間や行動には、無意識のうちに自分の気持ちや心理が表れているということになる。つまりそれを知ることで、快適な空間を作ることができるのではないだろうか。今回のゼミでは、自分の生活を振り返り簡単な実験をしながら、空間と人の心理の関係について学んでみよう。生活を快適にするヒントが見つかるかもしれない。