プロ作家の仲間たちと共に無心になれる
手仕事の魅力構築する喜びを伝えたい。
アクセサリー、フェルト小物、ポストカードなど “大人かわいい” 雑貨が並ぶ宝箱のような空間。リバーウォーク北九州3階の店舗には、ハンドメイド作家約30人の個性豊かな作品が並ぶ。代表の北川ひかりさんは、フェルト作家として活動を続けながら、ユニークな事業展開で、作家仲間と共に新しいフィールドを切り拓いてきた。
キャリアをリセットして手作りの世界に
専門学校卒業後は外資系化粧品会社に勤め、九州統括マネージャーとして教育研修やマーケティングなど多岐にわたる業務を担当した。月の3分の2は国内外の出張という多忙な生活が続き、葛藤が生まれたのが27歳だった。「人をきれいにする仕事なのに、自分を痛め続けていいのか」と、悶々としながらも状況を変えられず、どんどん不眠症が悪化。29歳のときに心療内科を受診した。「半分うつのような状態でしたね。30歳になるとき、思い切ってリセットしたんです」。高給もキャリアも捨て、会社を辞めた。
退職後は療養しながら、独学でフェルトアートを始めた。在職中にニューヨークで羊毛フェルト作品と出合い、ぬくもりのある素材に強く惹かれて、テキストと羊毛を買い込んでいたのだ。習う場所もなく試行錯誤していたとき、アメリカ人の世界的フェルト作家が京都の大学で非常勤講師をしていることを知った。講師を訪ねて京都に通い、羊毛をフェルト化して服飾小物を作る技能を習得。さらに知識を深めるため大学に入学した。
「造形をしていると無心になれる。これがすごく人間にとって大切なことに気づいたんです。もっとたくさんの人に手仕事を伝えていきたいと思いました」。
斬新な企画で事業を展開
世界に通用するアーティストを目指して、2000年に自己ブランド「WOOLBABY」を立ち上げ、デパートやギャラリーなどで作品を発表。手芸メーカーのフェルト羊毛の企画・製作に携わり、日本ヴォーグ社からフェルト教本を発刊した。積極的に講座を開催し、韓国にも講師として出向いた。「やりたいことがあると、不思議と後押ししてくれる人や会社と出会う」という北川さん。強い想いがあるからこそ、良い縁を引き寄せるのだろう。
結婚を機に40歳で福岡から北九州に転居し、2年後に出産した。子育てをしながら活動を続け、作家仲間たちと小倉で雑貨店をオープン。たくさんの作家が同じ場所でさまざまな手作りを教える「ワークショップバイキング」をプロデュースし、県内のデパートやハウステンボスなどのテーマパークに広げていった。小倉の手芸イベント「手作り市場」では、2日間で1000人を超える受講者を集めた。会社員時代に培ったマーケティングと顧客満足を追求する経営で、手芸業界に新風を巻き起こしている。
今後は東京の手芸出版社と提携し、全国の作家育成にも力を注いでいく。事業展開のため、クラウドファンディングにも挑戦する予定だ。「生きて歩いてきた道はすべて使えるんだと思っています」と語る北川さん。持ち前の明るさとバイタリティで、創造する喜びを伝えていく。
『株式会社フムフム』 代表取締役
北川 ひかりさん
1967年福岡市生まれ。資生堂美容技術専門学校卒業後、外資系化粧品会社に勤務。30歳で退職し、フェルトアートを始める。フェルト作家ジョリー・ジョンソンに習い、京都造形大学通信学部染織科で技術を学ぶ。2000年作家活動をスタート。2003年「はじめての手作りフェルト」(日本ヴォーグ社)発刊。2012年プロ作家の雑貨店「LaCachette FumuFumu」を立ち上げ、2014年株式会社フムフム設立。