
日本ではシングル向けのマンションなど、シングル文化が花盛りとのこと。しかしアメリカ人に「シングルのまま年を取るってどう感じる?」と聞いたら、なんだか皆、ピンと来なかったようだ。「中高年のシングル、普通だしね」という状況だからなのだろう。
離婚率の高いこの国では、中高年になってシングルに逆戻りというケースも多数。それをどうこう言う人もおらず、のびのびと生きている。
例えば日本で55歳の女性が離婚したとする。これからシングルになるわけだが、一生独り身で生きていかなければならないように思え、パートで得る収入もおぼつかず不安…というケースは少なくないだろう。
しかしアメリカでは違う。まず、アメリカ人の恋愛観。
日本では「いい年して恋愛なんて」という感覚があるが、アメリカのデート市場で55歳はまだまだ若い。離婚したら即、新しいドレスを買って、シングル市場へ飛び込めばいい。私の義母も70歳のときに、デーティングサイトで知り合った男性と再々々婚。
そして73歳で離婚した(離婚の理由は、80歳の夫いわく「セックスレスで不満がたまり、浮気した」!)。
しかし老年だって、出会いも別れも、なんにも恥ずかしいことじゃない。

そして何より大きいのが、中高年女性も当たり前のこととして「正社員の職」を持っていることだ。離婚は精神的な痛手だが、職があれば、せめて経済的なダメージからは逃れられる。
私が趣味で通うサルサクラブには、たくさんのバツ付きシングル中高年女性がいる。彼女たちは、日本人から見たら呆れるほどはじけ飛んでいるが、親しくなって聞いてみると、昼間は全く違うキャリアウーマンの横顔を持っている。
懸命に働き、生活を楽しみ、セクシーに生きているワーキングウーマンに、誰が文句を言うことができるだろう。
サルサ仲間の友人Sちゃん(日本人)は58歳からレントゲン技師を目指して大学に通い始めた。
「卒業するころは60歳だよ。どこが雇ってくれるか」と笑っていたが、その予告通り、60歳に卒業し、それだけでなく、クリニックの正社員の口まで決め、こちらでステイタスの高い医療キャリア街道を歩き始めた。
そんな彼女が、昨日こんなことを言った。
「日本だったら私、どんなに優秀な成績で大学を卒業しても、クリニックのトイレ掃除の仕事がやっとだったろうね…」。
中高年からでも挑戦できる土壌は、アメリカの労働基準法により守られている。履歴書に年齢・性別を書くことも、顔写真を貼り付けることも禁止されているアメリカだから、年齢や性別、見た目を理由に入口でシャットアウトされることがない。
努力次第で未来が変えられるこの国では、中高年のシングル女性ライフも、実にのびやかだ。

猪股るー
元アヴァンティ副編集長。2016年にロサンゼルスにて広告・翻訳プロダクション「Ru-Communications LLC」を起業し、雑誌や広告を専門とするキャッチーな日英翻訳、日英広告制作などを行っている。著書に『愛する日本の孫たちへ』(桜の花出版)、韓国で出版された『チョルムン イルボノロ マルハジャ』(サラミン出版)などがある。
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