インタビュー

永井 愛さん/芝居を通して人間と社会を描き、今の時代を照らす。

永井 愛(ながいあい)さん
劇作家・演出家、二兎社主宰
1951年東京都生まれ。桐朋学園芸術短期大学演劇専攻科卒。1981年大石静と共に劇団「二兎社」を設立。1991年より代表を務め、劇作家、演出家として公演を続ける。主な作品『兄帰る』『萩家の三姉妹』『こんばんは、父さん』『書く女』『鷗外の怪談』など。紀伊國屋演劇賞個人賞、鶴屋南北戯曲賞、岸田國土戯曲賞、読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞など多数受賞。

芝居を通して人間と社会を描き、今の時代を照らす。

日本の演劇界を代表する劇作家の一人として、海外でも注目される永井愛さん。北九州芸術劇場でも幾度も作品を発表し、北九州市民に親しまれている。今年2月には樋口一葉を描いたリーディングセッションvol.25「書く女」を北九州に約一週間滞在して製作し、大盛況で公演を終えた。

舞台俳優を目指して

小学生の頃から役者を志し、大学の演劇科に進んだ永井さん。時代は激動の70年代。ヒッピー、反戦デモ、大学紛争など様々な形で若者の主張が噴出し、演劇界ではアングラ劇団が台頭してきた。芸術的な視点で社会や人間を描く新劇に憧れていたが、アングラに人間の原始的なエネルギーを感じ、価値観を大きく揺さぶられた。迷った永井さんは、新劇でもアングラでもなく、前衛劇団に入団を決心。「それが見事に落っこちたの」と朗らかに語る。当時の劇団は新卒採用のみで次はない。それでも、あきらめずアルバイトをしながら、役者の道を模索した。

25歳で小劇団に入るが、役者同士の方向性が合わず2年で解散。ちょうど27歳の頃だった。そこで出会った大石静さんと共に、あちこちの劇団に出演を交渉して回った。年頃の永井さんの将来を心配し、「愛ちゃんは演劇に向いていない」と言われることもあったが、やめる気はなかった。「私にはおもしろい視点や、誰も気づかないことを表現する力があるー! と思い込んでいたのね」と笑う。

二人だけの劇団を旗揚げ

30歳を目前に、「人に頼るのはもう限界。自分たちでやらないと舞台には立てない!」と永井さんは同じ卯年の大石さんと劇団「二兎社」を設立。台本作りにも挑戦し、演出と役者をこなした。「役者を目指していたので、最初の台本を書き上げたときは、人生の色が塗り替わったような喜びでした。すごいことをしたと、初めて自分で自分を褒めました」。幸せを感じたのは2作目まで。「あとは苦しいばっかり。なかなか書けないし、できてもまだダメなんじゃないかと思う」。生みの苦しみは今も続いている。

旗揚げから10年後、大石さんが脚本家に専念するため退団。永井さんは自作の公演を続け、演出家として活躍。44歳のとき作品が初受賞、48歳のときに当時最高齢で新人賞の岸田國土戯曲賞に選ばれた。以後、数々の賞を受賞し、劇作家と演出家としての地位を磐石のものにした。

女性たちよ、賢く戦え

永井さんの作品は、現実の生活に直結した社会問題をすくい上げ、ユニークな人物描写と軽妙な台詞で観客を魅了する。

「私が見て感じたことを、芝居として記していきたい。明治時代のことであっても、今を照らすために書いています」。 樋口一葉が生きた明治は、女性の社会進出が厳しい時代。妥協せずプロの書き手を貫いた彼女の人生や時代背景から、永井さんは “今” を投影して見せる。

「時代は進んでも、構造的に大きな変化はないのでは? 日本の女性たちにもっと自己実現してほしい。そのためにはもめごとを避けるより、ぶつかってほしいのです。うまく意見を伝えて周囲を懐柔しながら、一緒に可能性を切り拓いていきたいですね」。永井さんの言葉は、女性たちが時代を生きるエールに満ちている。

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