一番怖いことが一番やりたいこと。恐れず、やってみる!
絵を描くのが好きだった井上さんは高校時代にアニメーターを志した。日本のアニメが世界の大注目を集める以前のことだったから、周囲に大反対され、断念。振り返れば、これが “自分” という足場がぐらつき始めた最初だったと思う。20代は生きづらさが付きまとった。
「だから、アクセサリーは同じような思いを抱えた女性へのエールの気持ちも込めて作っています。天然石など素材にこだわりながらも、アクセサリーとして手軽に身につけてもらえる価格、落ち込んだ時につければ『私、可愛い!』と自分を元気づけられるもの、というのが大前提なんです」。
自己表現がなぜ恥ずかしいのか。
短大卒業後はCADオペレーターとして13年勤めた。CADを駆使しての足場の設計や計算はミスが現場の事故に直結するだけに責任感が味わえた。ただ、データ通りに正確にものを作る作業は、彼女の適性とは対極に位置していたのだろう。頭では充実感を感じても、気持ちは空虚だった。
一度試みた転職もうまくいかず落ち込んだ。「当時の彼が、『この際、自分の好きなことをじっくり探してみたら?』と言ってくれ、救われたんです」。この彼こそ、未来の夫となる人である。写真やネイルなど思いつくままにやってみた。友達にネイルをして喜ばれると、うれしいし、楽しい。それはしまい忘れていたものを思い出すような作業だったという。その中で表現活動が自分を生かす道だと気づく。
「極めつけは、自分が一番怖いと思うことが、自分が一番したいことだよ、という友人の一言。人前に立って、自分自身をさらけ出すのが一番怖いと思っていた私が見つけたのが、市民参加型ミュージカルでした。10代から60代の参加者の方々の生き方、考え方に出会って、怖いとか恥ずかしいなんて、ちっぽけな感情だなと思えてきて。視野が広がりました」。
心に寄り沿うアクセサリー
このミュージカルに参加している時、東ティモールという国の歴史を描いた映画を紹介され、上映会を企画。支援協力として同国のコーヒー販売も手掛けるようになった。コーヒー販売からの売上は考えていなかった為、同時にアクセサリーのオンラインショップ「il nesso(イルネッソ)」を立ち上げる。
本格始動は2013年。当初は1日に1件オーダーが入るだけで喜んでいたが、現在は1日に30件という日もある。リピーターが多いのも特徴。最近は、海外からのアクセスも増えているそうだ。デザインコンセプトは “毎日をがんばっているすべての女性たちに”。
「あなたのそばに寄り添えるような、そんなアクセサリーであるよう、願いをこめてつくっています」という思いを伝えたいから、忙しい中でも一人ひとり手書きのメッセージを添えて発送している。
彼女の耳元にもカラーストーンがちょこんとついたピアスがやさしく揺れている。耳に揺れるものを着けると運気が上がるという説がある。男性は揺れるものを追う習性もあるそうだから、愛情運もあがりそう。お守りとして、井上さんのアクサセリーが一つ欲しくなってきた。
『il nesso(イルネッソ)』 代表
井上 アヤさん
広島県出身。福岡の短大を卒業後、建築足場のリースレンタル会社に入社。CADオペレーターとして13年間、足場の設計を担当。一回転職した後、やりたいことを探すため2年間のブランクを置く。2013年にアクセサリーオンラインショップ『il nessoイルネッソ』をスタート。将来はこの事業を育児退社したママたちの職場復帰の場にもしたいと考えている。