
天神の一等地のオフィスビル最上階。ルーフバルコニーが心地よい。総社員数79名で今年は新卒が12人入社した。今月は、ウェブマーケティング事業を展開する創業14年目のアンダスを訪問した。
人生において職場経験は、お手本にも反面教師にもなるものだ。「こんなものがあったらいい」という起業の芽は、仕事に一生懸命取り組んでいるなかで生まれることが多い。まさに、前田哲郎社長の場合も、そんな経験が土台になっていた。
「竹刀を持って部下を鼓舞していた」のは、東京で勤めた光通信のマネージャー時代。「20歳の若造が実力次第でマネージャーをする。売上目標を達成することが目的だから、顧客満足なんて考えたことがない。10年間、お客さまから『ありがとう』の言葉を何回聞けたかなあ」と振り返る。
ITバブルを経験し、福岡に舞い戻った時、30歳になっていた。当時東京で一緒に起業しようとしていた部下と音信不通になって頓挫した。そのとき、自分自身の生き方を猛反省し、「喜怒哀楽を共有できる仲間がほしい」と痛切に思ったという。
「プッシュ型営業」から「プル型営業」へ
福岡ではウェブ制作会社に就職し、営業部長として実力を発揮するが、お客さまから相談も受けた。納品した後にお礼を言われても、何カ月かたつと、「問合せがない」「アクセス数が伸びない」と言われるわけだ。
「プッシュ型」の営業は得意だった。電話アポイントをとり、訪問し説明して受注する。お客さまの心を動かすのが営業だと思っていた。「ウェブサイトはターゲットに見にきてもらわなければいけない。『プル型』営業です。そこで、ネット広告、マーケティングを勉強したんです。コトラーの本を読んだり、宣伝会議のマーケティング講座を受けたり」。
ウェブ広告を提案したり、SEO対策をしたり、「効果をあげる」取り組みをはじめた。すると、問合せや受注が増え、お客さまから感謝され、やりがいを感じた。この時、お客様が求めているのは、こういうことなのだと気づいた。しかし、広告はやらないという会社の方針と合わず、自分で会社をつくることになる。当時の仲間に声をかけ、9人で起業した。
「ウェブ制作会社、システム開発会社、広告代理店が別々に存在するのでなく、自社ですべてできる会社にしたい。マーケティング戦略が先にあって、そこからいかにターゲットに届けるか。販売チャネルとしてのウエブサイトがあると思った」。
起業する人とは、「なぜ」を考え、「どうしたらいいのか」をとことん考える人なのだ。
世の中にいい影響を与える存在に
常に考え、仲間を増やしながらつくりあげた会社は、13年間増収を続け、売上20億円も見えてきた。
5年前につくった子会社、クリエイティブセンター福岡では、「福岡九州のクリエイター人口の拡大とクリエイティブレベルの向上」をミッションに、600人のフリーランスのクリエイターをネットワークしている。「デザイナーとエンジニアの教育機関はあるが、マーケティング戦略の全体設計をできる人材が圧倒的に足りない。そんなマーケティングプランナーを育てたい」と夢は大きい。
福岡発ベンチャーにこだわりたいという前田さん。「福岡はいま、スタートアップがもりあがっているけど、彼らがメガベンチャーになっていかないと地域経済への貢献はできない。目の前にそういう人たちがいることが、いちばんの啓蒙だと思っている。先に起業した僕らがそうなっていく姿を見せること、自分たちががんばることが世の中にいい影響を与えるのではないかと思っているんです」。
社員研修。新入社員12人も一緒に、真剣に学んでいる
オフィス風景
ルーフバルコニーは、社員みんなの憩いの場
村山取材メモ
成長IT企業は、案外堅実経営だった
◎「マーケティングは営業活動そのもであり、経営そのもの」
◎広告、制作、システム開発を一社で対応。ワンストップ・ソリューション
◎「デジタル神無月」開催。デジタルマーケティング&クリエイティブカンファレンス、2日間でのべ600人
◎大きな借入をせず、利益から次の一手を

アンダス株式会社
代表取締役社長
前田 哲郎さん
熊本生まれ福岡育ち。ヘヴィメタルバンドでデビューを夢見て上京。アルバイトで頭角を現し、管理職に。30代前半に福岡で起業し、中堅IT企業に成長。独身、婚活中。
アンダス株式会社[http://www.andus.co.jp/]
●ビジョン/マーケティングを通して人々の人生をほんの少し幸せにしていくこと
●創業/2004年
●代表取締役社長/前田哲郎
●資本金/1,000万円
●事業内容/ウェブマーケティング事業、オリジナルプロダクト事業、メディア事業
●社員数/79人
●社員構成/男:女=5:5
●平均年齢/29歳