インタビュー

山際 千津枝さん/「“幸せのお手伝い”なんて、おおげさかしら」。

山際 千津枝(やまぎわ ちづえ)さん
『山際生活デザイン研究所』 主宰
Profile/1947年、北九州市生まれ。短大を卒業後、料理研究家として活動をはじめ、1983年『山際生活デザイン研究所』設立。料理研究家としての活動をはじめ、講演の講師、原稿執筆、行政機関の委員、テレビやラジオのコメンテーターまで活躍の場は多岐にわたる。アヴァンティ北九州版に2000年から「ちょっと毒をひとつまみ」と題したエッセイを8年間連載し、好評を博した。

「“幸せのお手伝い”なんて、おおげさかしら」。

閑静な住宅街にあるマンションの最上階。窓の外に緑が広がり、柔らかい光がさしている。壁一面には素敵な木製の食器棚が! ここは山際千津枝さんの事務所兼自宅。凛とした佇まいに穏やかな微笑みを浮かべて、山際さんは迎えてくれた。カメラを向けると「いい人っぽく撮ってくださいね。美人にとはいいませんから」とメディアでおなじみのウィットにとんだ 〝山際節〟 が飛び出し、その場はたちまち陽気なムードに包まれた。

環境を変えることで人も変わる

料理研究家として活動をはじめて40余年。おいしく手軽に作れるレシピに定評があり、いつもにこやかで、知的でユーモラスに核心を突く人柄も魅力だ。さぞかし利発で賢い女の子だっただろうと思ったら、「私ね、いわゆる問題児だったのよ」。予想外の言葉に驚いた。「学校には遅刻するし、授業を聞かず本を読んでばかり。将来の夢もなく、親のすすめで短大の栄養科へ進学して。だから、料理好きが高じて料理研究家になった、みたいな美しい話じゃないのよ」と大らかに笑う。 大学卒業を目前にして、栄養士になろうと決意。保健所に勤める女性栄養士のもとインターンを経験した。そのうち「公民館で主婦に料理を教えてほしい」と声がかかる。主婦にはあまり自由のない時代。料理教室なら堂々と出かけられ、おしゃべりも楽しめる。講座は人気が高まり、山際さんの教え方もおもしろいと評判になった。「女性も外に出て何かしたい。そんな時代の空気が後押ししてくれたのでしょう」。初めて事務所を構えたのは30代の半ば。そこから知的な人と交流が増え、大いに刺激を受けたという。「環境が変われば、人間関係が変わり、読む本が変わり、そして自分も変わるものですね」。ときはバブルで仕事の依頼も殺到。メニュー開発から講座、テレビまで、仕事の幅はぐんぐん広がった。

モノもアイデアも惜しまずに

仕事の依頼は、基本的に断らないのが山際さんのスタイル。原稿執筆だけで月15本抱えていたことも。とはいえ、がんばりすぎて疲れ果て、いつも不機嫌だった時期もある。「ある日、ハッと気づいたの。料理研究家は健康で幸せそうでなければと。自分の仕事の意味を問い直したら、ビジネスもうまくいくようになりました」。

欲がなく、誰にでも同じ態度で接する。そんな山際さんには 〝ギフト〟 の精神が根づいているようだ。「人にモノを贈るのが習慣になっていて、美容室にさえ何か持参する手土産病かも。料理のレシピもブログで公開しています。考えてみたら、6畳2間の新婚時代から、いつもいろんな人がうちにご飯を食べに来てましたね」。

仕事のやりがいを尋ねると「やはり収入でしょ」とまっすぐな答えが返ってきた。「お金のためだけではないけれど、そこをきちんといっておかないと、ウソになる気がします」。そして、言葉をつないだ。「世の中や誰かに必要とされていると思えるのは、何よりの幸せ。働いて、ご褒美に賃金をいただくと生き甲斐になります。私の料理をおいしいと食べてくれる人の笑顔を見るのが好き。おおげさにいうと、人の幸せのお手伝いをしている気になります」。とびきりあったかくて、たまにスパイスが効いて、ユーモアもたっぷり。唯一無二のキャラクターで、山際さんは私たちのお腹と心を満たしてくれる。

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