「私は依頼主の夢を形にするための “水先案内人” です。建築現場でもチームを組み、力を発揮できるように心がけています」。そう話すのは、一級建築士として活躍する渡邊美恵さん。男性社会の建築業界で、紅一点が職人の現場に飛び込めば、受け入れられるまでに時間がかかることも多かったという。だからこそ建築士のイメージにとらわれず、自分なりのやり方に工夫をこらしてきた。顧客の夢も、現場の意見も、相手の言葉を聴く姿勢はいつも謙虚に柔軟に。しかし決して理想を諦めない、しなやかで折れない強さを併せ持つ。自身が思い描く “建築への女性的アプローチ” を、数十年のキャリアを経て形にしてきた。
渡邊さんが建築士を志したのは大学受験のころ。裁縫や料理などクリエイティブな作業が好きだった彼女のアンテナはユニークな学び舎を見つける。木工や陶芸など様々な素材から造形をつくり建築へとつなげる、自由な校風に惹かれて大学を選択。卒業後は百貨店で店舗設計の部署へ。洗練された西洋風の店舗づくりはやりがいにあふれていたが、仕事でイタリアに居を移した際に大きな変化が訪れた。「西洋で古い建物が生かされている様は、日本の伝統ある木造住宅の素晴らしさに気づくきっかけになりました。それに加えて当時忙しさで体調を崩したこともあり “働く女性にこそリラックスできる木の効用を” と、建材を見直しました」。健やかな木の空間、家事時短の導線や、耐震性・省エネ等、住み心地に徹底してこだわる彼女のスタイルがここで確立した。
渡邊さんは今、地元である福岡県で活動している。「年に数回は山へ足を運びます。地元の木材を活用したい」。彼女の夢は、戸建新築やリノベーションに加えて、いつか小旅館を手がけること。心を癒す “女性視点” の空間づくりは、常に新たな挑戦を見据えている。
一級建築士事務所『ののデザイン』 代表
渡邊 美恵さん
北九州市出身。九州芸術工科大学(現 九州大学)環境設計学科卒業後、レストランやジバンシィ店舗等の設計に携わる。その後イタリアで店舗企画業務等に従事したのち福岡に戻り工務店に勤務。山と繋がる家づくり活動、住宅リノベーションの設計業務を経て2012年独立。一級建築士。管理建築士。福岡県建築士会会員。NPO法人九州森林ネットワーク理事。暮らし省エネマイスター。既存住宅現状検査技術者。耐震診断・耐震改修技術者。
▲ 1.壁面収納を部屋にあわせた杉無垢材で設計(マンションリノベーション)。
▲ 2.〜都心の暮らしにも森の心地よさを〜のイメージ図。プレゼンではパースを自身で描きイメージを共有。「ぜひ渡邊さんに作ってほしい、と奥様から選んでいただくこともあります」と、こまやかな対応が女性に喜ばれている。
▲ 3.イタリアンレストラン。西洋風デザインも渡邊さんが得意とするところ。
一級建築士事務所 ののデザイン
福岡市南区高宮3-12-24-763(西鉄電車 高宮駅より徒歩5分)
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