池田 賢治(いけだ けんじ)先生
福岡工業大学 社会環境学部 教授
獨協大学外国語学部ドイツ語学科を卒業後、翻訳会社での勤務を経て、西日本短期大学非常勤講師に。福岡大学大学院にて文学修士を取得、西日本短期大学専任講師を経て2001年より福岡工業大学社会環境学部社会環境学科にて教鞭をとり、2011年より現職。全国教室ディベート連盟などでコミュニケーション能力の育成に携わる。
「コミュニケーション力」ってどうやって育てるの?
トレーニングの前に、本質に目を向けよう。
「コミュ力」。最近、こんな言葉が就職活動中の学生など若い世代に使われている。「コミュ力」とは「コミュニケーション能力」という言葉の略で、会話が苦手だったり、意見をうまく伝えられなかったりする性質を「コミュニケーション障害」とも。ビジネス書でも、会話術や雑談力といったコミュニケーションをテーマとした書籍が多く出版され、相手の言葉をひきだしながら成長を促す「コーチング」の技術がビジネスマンに定着してきた。今回は、コミュニケーション能力の育成を研究している、福岡工業大学の池田賢治先生に話を聞いた。
言葉はツールでしかない
池田先生の研究の出発点は英語教育。現在も英語の授業を多く受け持つ先生が、言語の枠を超え、コミュニケーション学に至った理由は何だろうか。「言葉はひとつのツールでしかありません。表情なども重要で、言葉を発する以前に第一印象として相手に伝わります。近年のコミュニケーション能力育成では、言葉や表情、プレゼンテーション技術など、ツール活用法の習得が多い。私は、ツールを使う以前の、本質的なところをまず育成すべきだと考えています」。
本質的な部分とはなんだろう。「コミュニケーション能力とは、人間力や社会的スキルとよばれるものと同じ。社会で生きていくための能力が集約されているものです。会話を楽しもうという意識や、情報収集し、何かに参加し、問題を解決しようとする意欲。それらが、コミュニケーションの本質なのです」。
効果的なコミュニケーションの3つの要素
言葉などのツールがうまく使えても、本質的な部分が確立できないと、相手との関係や会話内容も薄っぺらになってしまう。では、本質を育てるにはどうすればよいのか。効果的なコミュニケーションに必要なものは3つある、と池田先生。「効果的なコミュニケーションには、こう伝えれば相手がどう反応するかという想像力、相手が意見を出しやすいよう配慮するなど相手に負担をかけない思いやり、そして自分の役割を認識して演じる力の3つが必要です。
相手との上下関係など、状況に応じた役割を演じるには、最初は我慢や不完全さを伴いますが、演技を継続し、より自然に、個性を交えながらできるようになると、それがコミュニケーションの力になります」。
この3つの要素を鍛える方法の一つとして、先生が提唱するのはディベート。「論題に対し賛成か反対か、与えられた立場で解決案を練るため意見を主張し合う。これを繰り返すことで、思いやりと想像力、演じる力が身につきます。教育や就職試験の現場ではディベートが導入され始めましたが、もっと早い時期から育成を積み重ねないと、外国語などのツールを学んでも伸びません」。
福岡工業大学で学生たちが、研究成果などを効果的に世に広められるよう、「コミュニケーション基礎」という全学生向けで就業力育成のための授業を行う池田先生。実際にどのような授業が行われているのか、気になる内容をゼミで聞いてみよう。