
田中 彩(たなかあや)さん
NPO法人ママワーク研究所 理事長
第一子出産を機に退職、再就職を経験。育児と仕事の両立に悩む。第二子出産後はボランティア活動に積極的に携わる。2009年NPO法人マドレボニータ発行の「産後白書」製作第1期スタッフ。2008年より母親の心と体の健康がテーマのグループ「バランス・ママン」を福岡にて主宰。2013年にはNPO法人「ママワーク研究所」を設立、初代理事長を務めている。
仕事も育児も大切だから。
働きたいママと企業をつなぐ 橋渡しをしたい。
「27歳は、転機の年でした」。やりがいのある仕事に夢中だった日々から一転、結婚をきっかけに自分のやりたいことや価値観を確かめながら選択をするようになったという田中彩さん。現在、『NPO法人ママワーク研究所』の理事長として、もう一度働きたいと願うママたちを支援している彼女だが、「実は私、再就職挫折組なんですよ」というから驚きだ。自身の悩みや経験を基に支援事業を行う彼女の話を聞いた。
ベンチャーで体感したのは仕事を作っていく楽しさ
最初に就職した出版社では、地方行政に対する事業計画等のコンサルティング業務を担当。その後、福祉系の事業を行うベンチャー企業に転職、総務課長のポジションについた。就業規則を作るところから始め、給与計算を行い、人事労務も担当する多忙な毎日。スタッフを評価する仕組みが欲しいというニーズがあれば各部署にヒアリングを行い、労使双方に有用な方法を考えて評価システムを構築するなど、常に「総務課長として何をやるべきか?」と自分に問い続け、独学で1つ1つ作り上げていった。やりたいことをゼロから形にしていく姿勢は今に通じているという。
さらに、特養老人ホームを作る話が持ち上がった際には、その運営母体として社会福祉法人の立ち上げ事務も並行して担うことに。不安はなかったか尋ねると「声がかかるということは見込みがあると思っていただけたということ。挑戦せずに後悔するより挑戦して多くのことを学びたいから」と、未経験の仕事にも果敢に取り組むポジティブな答えが返ってきた。その後、総務部長となった27歳で結婚。夫は東京、自身は佐賀に住み、2週間に1度会う別居婚という形を選択した。仕事も結婚も両方叶えたいという思いが根底にあった。
ママが再就職に挫折しない働きやすい環境作りを
第一子の出産を機に退職、東京へ。2年の専業主婦期間中にいくつもの資格を取得した。「子育ても楽しいけれど、どこか満たされない思いがあって。今思えば社会復帰への焦りがあったんですね」と振り返る。片道2時間通勤、6時間の時短勤務で再就職したものの、1人早く帰る申し訳なさと体への負担が限界に達し、倒れてしまう。寝たきりの布団の上で、誰にも頼らずママが何もかも一人でがんばるのは無理なのだと痛感したという。
第二子出産後、家族で帰福。福岡に戻ってきて気付いたのは、子育て支援はあるが母親支援がないということ。そこで、バランスボールを使って産後の体を整える講座を主催したり、ワーキングマザーがそれぞれの思いをシェアしあう場のサポートなどを始めた。その一環で働くママ200人に調査を行ったところ、フルタイム勤務と専業主婦の間くらいの柔軟な働き方を望む声が非常に多く、高いスキルを持ちながらも条件が合わず中々働きに出られないママが多いことに気付いた。そこで、優秀な人材を求める企業と働きたいママをつなぐ現在のNPOを設立。企業に対しては時短勤務やテレワークなどの多様な働き方の普及啓発を行い、ママに対しては復帰後に向けたサポート環境を作る大切さを伝えつつスキルアップの場を提供している。
「挫折も失敗も時間が経てば人の役に立ちます」とほほ笑む田中さん。ライフステージに応じた柔軟な働き方が可能な社会を目指して、福岡から支援を続ける。