髙山 百合子(たかやま ゆりこ)先生
筑紫女学園大学 短期大学部
現代教養学科 教授
佐賀県出身。大学院の授業も兼任。大学では主に「敬語・論理と実際」「日本語のしくみ」など、日本語の概説や表現に関わる授業を担当。個人的には、目下、江戸時代に長崎で活躍した通訳者である長崎通事の語学書研究にとり組む。柔和な笑顔の先生だ。
敬語って難しい!?
理論的には正しいけれど、現実的ではない敬語とは?
「若者の言葉使いや、〝ら〞 抜き言葉が日本語を乱している、なんていう意見もありますが、実際にはそんなことはありません。言葉は時代と共に変化し続けるもの。上下関係などの立場は置いておいて、そもそも言葉(敬語)を使うときに、正しいのか正しくないのか、文法からだけでは決めつけられない面もあるんですよ」。肝心なのは気持ちが伝わること、と髙山先生。日本語の先生なのに、敬語の使い方にフランクで驚く。先生は日本語の変化や間違いについて話してくれた。
間違った 〝敬語〞 はすべて叱責すべき?
「名詞の前に 〝お〞 〝ご〞 をつけて、文末を 〝〜する〞、と言うのが謙譲語。主語の立場を低めて間接的に相手を高める表現法です。まわりくどいやり方のせいか、特に尊敬語のように使う間違いが多いですね。〝ご協力してくださったおかげで〞 という一文。これは、正しくは〝ご協力くださった〞 か 〝協力してくださった〞 です。協力をしていただいたのに、その方を低く扱って感謝の意を一段下げています」。福岡では 〝〜されてください〞 という方言もあるので、より言い方を間違えやすいそうだ。
また帰宅するとき、上司に「お疲れさまでした」と声をかけていないだろうか? これも厳密にいえば使い方としては間違い。目上の人に 〝ねぎらう〞 表現は基本的にNG。そんなときは「お疲れでございました」と特別丁寧語を使う手も。
ただ、先生はこう語る。「用法としては目下からの〝お疲れさまでした〞 は、確かに間違いです。でも部下からお疲れさまでした、と言われて言葉が耳障りだと怒る上司なんているでしょうか。言葉は気持ちが自然と口をついて出てくるもの。〝植え木に水をあげる〞 という言い方も、間違った使い方でしょうが、植物に寄せる愛情が、「やる」でなく「あげる」という1ランク上の言い方を引き出したと思えば、理解できます」。使い方として厳密には間違いでも、現実社会では感謝を表す〝お疲れさまでした〞を利用しない日本人なんていない。
今の敬語がずっと正しいの?
また、かつてある新聞が「とんでもありません」は、日本語として間違っていると書き話題になった。以前は「とんでもない」で一つの形容詞であって、「とんでもないことでございます」が正しいという解釈だった。しかし2007年の文化庁の文化審議会では、「とんでもありません」という表現は間違っていないと、容認した。
「言葉は徐々に変化します。本当は変化に応じて、とらえ方、解釈の方を修正していかないといけないのかもしれませんね」。 現在の文法的には正しくないけれど、〝わかりやすい〞 〝気持ちが伝わる〞 言葉を、無意識に選んで話すことが多い私たち。
今回のゼミでは、まずはメールでよく使う一文や、電話応対での正しい言葉を知識として学ぼう。そうして理論的に正しいとされる敬語の使い方を確かめつつ、髙山先生が語る現代の日本語の表現の広さに触れてみよう。