王 愛さん
『有限会社五十番食品』 代表取締役
1977年春日市生まれ。京都の大学を卒業後、大手通信会社の事務職に派遣で従事。2003年、父親が創業した会社に25歳で入社。2006年同社5代目の代表取締役に就任。2008年から毎月ニュースレター「パンダ通信」を発行したり、自身のブログで思いを発信したり、社屋の一角に直売所を設けるなど、“笑顔をつくる”取り組みを推進中。
父親から継いだ会社を守り向き合うことで自ずと強みが磨かれた
餃子や焼売など中華点心を製造する『五十番食品』を創業した父親のもと、三姉妹の次女として育った王愛さん。当時、冷凍中華を販売する会社は全国的に珍しく、業績は右肩上がりだった。
父が作った会社を守りたい
王さんは大学を卒業後、大手通信会社の事務職に派遣で従事。「自分が何をしたいかわからないまま、何となく仕事に就いた」という。3年経ち「仕事の内容も限られているし、私はこのままでいいのかな…」とモヤモヤが膨らんでいた頃、母から『五十番食品』の危機的な実情を聞いた。王さんが中学1年生のとき創業者だった父は病気で亡くなり、弟が後を継ぐもうまくいかず、社長の交代が続いていた。
そんな中、社内で分裂騒動が起きて十数人が辞め、別会社を設立。会社は売上3割減で存続の危機にあったのだ。「父の亡き後、母は会社のことで悩み、姉が入社したものの辞めて…。だから私は絶対会社に関わらないと思っていたんです。でも、どん底の状況を知り、思わず『私が入ろうか』と申し出ました」。
25歳で「取締役、社長室長」として入社。「創業者の娘で役職はついているけれど何もわからず、自分にできることをやろうと必死でした」。事務や商品の発送から工場まで、現場で経験を積んだ。分裂騒動の余波でお客様周りでは冷ややかな対応も受けることもあったが、笑顔で振る舞った。そうして29歳で社長に就任。「父の代から会社を支えてくれた工場長と常務が、私の入社も社長就任も喜び応援してくれ、本当にありがたかった」と語る。
王さんは伝統を守りつつ、新しいことにも挑戦した。例えば、社長就任の2年後に始めたブログと月刊のニュースレター「パンダ通信」は9年目の今も続けている。「会社では長く当たり前にしていたことでも、外部からきた私にはすごいと感じることが多くて。こんなにこだわり手間をかけているとお伝えしたかった。こちらの思いを知ってもらうことで、食べる時のワクワクやおいしさが違ってくると思うから」。
また、6年前には社内に直売所を開設。通常は商品を問屋や飲食店に卸しているため、実際に食べる人の声を聞くことがなかったが、月に1回格安販売会や試食会を開くことでその機会を得た。「お客様の意見を取り入れられるし、皆さんがおいしいと食べてくださる姿を見ると、モチベーションが上がります」。
仕事を通して笑顔を広げる
「うちの強みは技術力」と明言する王さん。「業績が下がりつらかったとき、小ロットで手間がかかる特注もどんどん受けました。『どこの会社もできなかった商品を作ってくれてありがとう』とお客様に喜ばれてうれしかった。特注を受け、一生懸命要望に応える中で技術力も上がりました」。
苦しい時期に踏ん張ったからこそ強みが生まれ磨きがかかり、業績も徐々に回復して、今があるのだ。最近は、地域独自の餃子を作りたいという依頼が増えた。「地元の粉や肉、野菜で商品を開発して地域活性化のお手伝いができるなんて、素敵でうれしい」と微笑む。
王さんが掲げる企業理念は「笑顔づくり企業」。「仕事を通じてお客様やスタッフ、地域を笑顔にしたい。やりがいは無限大です」。そう語る王さんの笑顔は春の陽射しのように柔らかく輝いていた。