英一郎(えいいちろう)さん
英一郎製磁 代表・磁器彫刻作家
横浜市出身。波佐見焼の窯元をルーツにもつ。武蔵野美術大学彫刻科専攻。無彩の白磁による造形と磁器に彫刻を施すという独自のスタイルで製作活動を行う。2009年「英一郎製磁」を立ち上げ、福岡を拠点に活動の幅を広げている。また大学の頃から音楽活動を始め、シンガーソングライターとしての顔も持つ。2012/2/22(水)~27(月)には東京銀座にて個展開催中。展覧会の予定や作品はブログに公開中。
http://ameblo.jp/eiichiro-seiji
英一郎さんへの3つの質問
Q. この仕事に向いている人は?
A. この仕事を強く志望する人すべて。
Q. あなたのバイブルは?
A. ディヌ・リパッティ(pf)の『ブザンソン最期のリサイタル(バッハ、モーツァルト・ショパン他)』
Q. あなたのメンターは?
A. この点に関しては、私は特に恵まれていると思います。かけがえのない多くの方々に導かれ、また、支えられています。
“磁器彫刻”で磁器の新たな世界を表現。
作家として大きく花開く日を目指して。
柔らかくみずみずしい花弁のはなみずきは、まるでそこに咲いているかのよう。羽づくろいするシギのくちばしは、今にもちょんちょんと動き出しそうだ。磁器でありながら、命の柔らかく温かな表情さえも映し出す作品の数々。作り主は春日市に工房を持つ磁器彫刻作家、英一郎さんだ。出自は長崎の波佐見焼の窯元。母も波佐見焼作家として活動する陶芸一家に生まれ育ち、幼い頃から焼き物を身近に育ったが、彼の心をとらえたのは彫刻の世界だった。
彫刻で磁器に“命”を吹き込みたい。
「形あるものには、すべて意味があると思っています。彫刻による写実的な造形で、生命感までをも表現したい」。彼の作品には、動物や植物をモチーフにしたものが多い。様々な命のカタチをデッサンし、刻み続けるうちに気がついたのは生き物の形に秘められた“生命の普遍性”。永遠に変わらない“命”までをも写し出せる作品を生み出したいと、成形し終えるまでには最低でも3カ月、ときには1年以上もの歳月を要するそう。その執拗なまでの造形美とまっ白な磁器のシンプルな美しさとが融合した、独自の磁器彫刻。その美しさを目の当たりにした人から、次々とオーダーが来るというのもうなずける。
磁器彫刻作家として、生きていく決意。
「好きなことをやれている今は、とても幸せ」という彼だが、作家として“食べていく”のは並大抵のことではない。経済が疲弊し、金銭的なゆとりが持てない今の状況では、芸術や文化に対する風当たりはますます厳しいという。そんな環境の中で、磁器作家としていかに生きていくか。英一郎さんはオーダー作品の受注のみならず、白磁のアクセサリーという新しい作品のジャンルに挑戦したり、自らアメリカへ渡り市場を開拓したり、と工夫を凝らす。「自分の作品に値段をつけるなんて…と抵抗があった過去もありました。でもこれからは、自身の作品に対する評価をお金に変える努力も必要だと思っていますし、それを私たち芸術家自身が声にして伝えることで、芸術という分野が金銭的にも評価される風土が育まれるきっかけになればと思っています。これから確固たる自信を持って『作家として生きていく』と言えるよう、やれることには果敢にチャレンジしていきたい」。アーティストとしての信念と、事業家としての努力と。その両輪を回し始めた彼が、磁器彫刻作家として活躍する日もそう遠くはない。