「食べる」と「脳」の不思議
栄養補給の意識だけではもったいない、医療への可能性も秘めた「食べる」こと。
今月は九州歯科大学口腔保健学科の吉野賢一先生の研究室を訪ねた。先生は元々農学部から転身した特殊な経歴の持ち主。現大学に助手として赴任してきて、口や歯に関わる神経の勉強を始めたのだそう。
先生の研究のテーマは3つ。昨年から始まったというメインの研究は、時間や場所、心理的な状態によって変化する「美味しさ」の研究だ。例えば同じお弁当でも、1人で食べた時と景色の良いところで食べた時とは、美味しさの感じ方に違いがある。この違いを脳の観点から探っていき、個人によって変わる美味しさの数値化を目標としている。これが達成されると、意思疎通が困難な人が「美味しい」と思える食事を提供するといったような、医療の現場に役立てることができるのだ。
さらに長年研究し続けているのは、口腔内の認知機能と舌の動きと脳の関係性。口にテストピースを含めて形を当てるという実験をすると、年齢が上がるにつれて正答率が下がるという。口腔内の認知機能が低下すると、誤飲してしまう可能性が高くなり、最悪の場合は死に至ってしまうケースも。そこで先生は舌と脳の動きに注目し、様々な動かし方をすることで、口腔内の認知機能が回復することを発見。美味しさの研究と絡めて、医療の現場に役立てるべく、研究を進めている。
今回のゼミは先生の研究をもとに、食べることと脳の関係を紐解いていく。「食べる=栄養補給」と思っているそこのあなた! 食べることの意外な効果をこの機会に学んでみよう。
九州歯科大学 口腔保健学科 口腔保健管理学講座 准教授
吉野 賢一先生
九州大学農学部卒業後、九州歯科大学にて助手、講師を経て現職。1994年から京都大学霊長類研究所にて共同研究員兼特別研修員として2年間勤務し、2000年からトロント大学歯学部口腔生理学講座にて客員研究員として2年間勤務。現在は国家試験を控える生徒達に生理学を教える傍ら、食べる時の脳の働きに着目し、3つの研究を進行中。