すぐに答えが出なくてもチャレンジして体験すれば世界は広げていける。
小さな箱を飛び出して遊園地へ
高校3年生。同級生はみんな進路を決める時期に、桑原裕子さんは舞台のオーディションを受けた。幼い頃から習い事は続かなかったのに、演劇部では芝居に夢中になった。「自分を走らせる思いは何なのか。それを探すために続けようと思ったんです」と親しみやすい笑顔で話す。
卒業後は小劇場に入団し、役者として舞台に立った。脚本・演出も手掛けるようになったのは24歳のとき。担当していたメンバーが辞め、半ば意地で挑戦した。3年経って書くことにも慣れたころ、「劇場の小さな箱を飛び出してみたい!」と思った桑原さん。
浅草の遊園地を劇団で借り切り、ステージではなく園内各地で芝居を行った。観客は好きな場所で自由に楽しむ文化祭のようなスタイル。定員100人の小劇場から、500人が集う遊園地へ、27歳で空間の枠を飛び越えた。
「超楽しい~! って、お客さんが喜ぶ顔を目の前で見て、芝居は一緒に楽しめるものだと思いました。鑑賞だけじゃなくて「体験」なんだということが分かったんです」。
北九州を舞台に街と人を描く
野外公演の体験は、小劇場でも活かされた。小さな箱は街にも空にもなれるし、立体的に使うなどアイディア次第でいくつものドラマを展開できる。桑原さんの作品は、市井の人々にスポットを当て、複数の人生の物語が交差する群像劇が特徴。舞台の主役は、観る人によって変化する。
北九州芸術劇場のオファーを受け、北九州の街と人を描いた「彼の地」を2014年に発表した。地元のオーディションで選んだ俳優、スタッフと共に臨んだ舞台は好評を博し、2016年には再演。そしてまた来年2月の公演に向けて、新たに「彼の地Ⅱ」を書き下ろす。
「北九州には自然も工場も街もあるし、区の個性もあって、来るたびに面白いと感じます。今回もここを 〟居場所〝 とするいろんな人を描いていきます」。
なぜ演劇を続けるのか、今も言葉にはできない。「10代と40代で答えは違う。私は往生際が悪いんですよ」と笑うが、安易な答え探しに走らず、真っ直ぐに心惹かれるものと向き合う情熱は、高校時代から変わっていないのかもしれない。
「どこまでも世界は広げていける。いっぱい無駄と思われるような挑戦をしてきたことが、そう私に教えてくれました」という桑原さん。温かい眼差しとエッジの効いた表現で今に生きる人を描き出し、「人生のひとときの陽だまり」を観る人に渡す芝居を創り続ける。
劇作家・演出家・俳優 劇団『KAKUTA』主宰
桑原 裕子さん
1976年東京都生まれ。演劇界の第一線で活躍。テレビ、映画、ミュージカルなどで脚本や演出を手掛ける。「甘い丘」で岸田國士戯曲賞候補、「痕跡」で鶴屋南北戯曲賞。今年12月に「荒れ野」、来年2月には「彼の地Ⅱ」上演を控える。来年4月より穂の国とよはし芸術劇場PLAY芸術文化アドバイザー就任。