長谷 千代子(ながたに ちよこ)先生
九州大学大学院
比較社会文化学府・研究院 講師・文学博士
鹿児島県出身、九州大学大学院文学研究科卒。南山宗教文化研究所、国立民族学博物館等を経て現在九州大学大学院比較社会文化研究院で講師を務めている。日常に溶け込んだ宗教的事象に興味を持ち、現在は中国の少数民族や地元福岡の宗教的・民俗的演劇を研究している。
意外と身近にある、精神的な世界。
捉え方次第で、幸せな考え方のヒントに。
「スピリチュアル」「パワースポット」に興味のある女性は多いはず。「私の運気はどうなるの!?」「結婚相手はいつ現れる?」と不安な未来に希望を求めたいとき、頼りたくなる存在である。そんな身近に関わる精神的な世界について探るべく、今回は九州大学大学院・比較社会文化学府・研究院で「宗教学」を教えている長谷千代子先生に話をきいた。
意外と身近にある精神的な世界と宗教
「1980年代頃から、宗教団体が関与した事件が問題になったり、新たな宗教団体が話題になったりと、宗教についてよく耳にするようになったのではないでしょうか。この頃は、物質ばかりがどんどん豊かになり、心が物足りない、という生きづらさが社会に広まっていた時代でした。宗教には拒否感を持つ人も多いですが、現実的な豊かさと心のバランスが崩れているとき、抽象的な存在や精神的な世界に救いや答えを求めることは、実はよくあることなのです」と先生。
心の隙間を埋めたいときに感じる、精神的な世界への興味が、「スピリチュアル」や「パワースポット」ブームにつながるのだという。なるほど、試験前に「神頼み」をしたり、星に願いごとをしたりと、形のないものに救いを求めることはごく身近にあるものだ。
恋愛と信仰は紙一重?
一般的に現代社会では、宗教的なものに抵抗感があり、現実的でない精神的な世界を信じることは「いかがわしい」と考える人が多い。そして現実世界とははっきりと区別するべきと考えられがちだが、身の回りの人やモノなど物質的で形のあるものが必ずしも現実的とは言い切れない場合もある。「たとえば何かを祈るとき、仏像や十字架などの対象物を置くことがあります。ですが、必ずしも仏像や十字架自体に祈っているわけではなく、モノを媒介としてその先の偉大な存在を感じ、それに対して祈っているのです。この、いわば 〝二重写しの現象〞 は、宗教や信仰に限らず、普段の生活の中にもたくさんあることです。目の前の恋人に理想を重ねて 〝この人こそ運命の人!〞 と思い込むのもこれと似ているかもしれません」と長谷先生は語る。遠距離恋愛の彼の写真を大切にしたり、亡くなった人の形見や遺品を通して故人に思いを馳せる時など、同じ現象は他にもありそうだ。
このように、形として見えないものだからいかがわしい、怪しいとは一概には言えず、宗教かそうでないかの線引きもあいまいなもののようだ。「人間の長い歴史の中で、信仰や宗教は暮らしに密接に関わっていて、共に生きてきたと言っても過言ではありません。形のないものを信じることで、救いとなったりハッピーに過ごせることもあり、それも必要なことだと思います」。
今回のゼミでは「宗教」や「信仰」という言葉の意味や、身近な精神世界について考えてみる。日常と非日常を結ぶ精神世界を紐解くことで、見方が変わり、自分にとって幸せな考え方のヒントとなるかもしれない。