戸内 智子(とうち ともこ)さん
社会福祉法人 北九州市福祉事業団運営
子ども・若者応援センター
「YELLエール」 統括マネージャー
Profile/熊本市出身。㈱アサヒビール、㈱ハウス食品、㈱西日本シティ銀行勤務の後、自らの病気をきっかけに代替療法に興味を持つ。渡米および国内で、薬に頼らないホリスティック(全体論)的対応とメンタルケア、カウンセリングを学ぶ。2000年9月「LCS(life create support)オフィス」を開業。2010年10月に北九州市が設置した「YELL」の立ち上げから携わり、国家資格のキャリアコンサルティング技能士、ユースアドバイザーとして相談業務を行っている。
ピンチもチャンスも、全てがきっかけになる。
雇用情勢の悪化やコミュニケーションの希薄化などで、社会生活が困難な若者が増加している。「YELL」はこれら若者の支援施設として2010年、北九州市が戸畑区の「ウェルとばた」内に開設した。戸内さんは統括マネージャーとして、就学・就労が困難な状況にある若者の相談や支援業務にあたる。話していると安心して何でも相談したくなるような、笑顔が素敵な女性だ。
病気で退職したことが人生の転機に
27歳の頃、夫の転勤で北九州へ。専業主婦で子ども2人はまだ小さかったが、初めての土地で少しでも知り合いを増やしたい、と職を求め、メーカーの企画、販売促進業務に就いて働いた。人と接するのはもともと好き。厳しいこともあったが仕事は充実して楽しかった。だが頑張りすぎて体調を崩し、退職。回復には数年という長い時間を要したが、病気をきっかけにカウンセリングやメンタルケアに強い関心を持つようになった。その熱意は渡米してアロマやフラワーエッセンス処方を学ぶほど。またその過程で出会った素晴らしい人の話を多くの人に聴いてもらいたいという一心で講演会を企画し、初めての主催にして500名を超える人を集めた。学ぶ意欲が強く、得た情報は惜しみなくシェアする。そんな戸内さんの元には自然と情報と人が集まるようになり、その後もセミナーやイベントの開催を重ね、「LCSオフィス」を設立。医療現場に統合医療を導入し、当時はまだ珍しかった催眠療法、アロマ、フラワーエッセンスを取り入れたカウンセリングを行うなど、ホリスティックな対応を重視した活動を行って業界でも話題になった。
経験にひとつも無駄はない
その後も勉強を重ね、産業カウンセラーやキャリアコンサルティングといった資格を次々と身につけながら、活動の幅を広げていた戸内さん。勉強仲間から「YELL」開設にあたって声がかかったのは、社会的信用も得て仕事も順調な頃だった。「正直迷いました。でも自分のやってきたことが役に立つのなら…と話を受けることにしたんです」。
立ち上げから関わってみれば、そこは戸内さんが今まで経験してきたことのすべてが活かされる場所だった。かつて自身が救われたカウンセリングやメンタルケアはもちろんのこと、様々な企業勤めの経験があるからこそできるアドバイスもある。「20数年前からすべてがつながっているんです。無駄なことは何もないと思う」。
現在「YELL」には、15歳から40歳未満の相談者とその家族が訪れる。年に2000件を超える数だ。「誤解してほしくないのは、ここへ来る若者たちは怠けて働かないわけじゃない。個人の責任だけではない、働けない社会背景もあるということを知ってもらいたい。自分を責める親が多いことも心配です」。
小さなきっかけで働けなくなった、前へ進めなくなった若者たちに戸内さんが願うことは、いかに自分が主役の人生をデザインするか。それをイメージして行動できたとき、人は自分らしく進むことができる。またその姿を見ることが、今の戸内さんの大きなやりがいでもある。